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No.86 Galapagos Brown Noddy Tern

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Galapagos Brown Noddy Tern (ガラパゴスクロアジサシ:Anous stolidus galapagensis)"です。

Galapagos Brown Noddy Tern (ガラパゴスクロアジサシ:Anous stolidus galapagensis)

海中に飛び込んだペリカンを見つけて早速飛んで来たクロアジサシの番い。

ガラパゴスには、ペンギン、コバネウ、フラミンゴ、ダーウィンフィンチ、アオアシカツオドリなど多くの学者や野鳥愛好家の関心が集中し、見たい鳥、撮影したい鳥の筆頭に挙げられるような野鳥が多いので、その一方、ガラパゴスの固有種あるいは固有の亜種であるのに、どうしても地味で目立たない存在になってしまうものもかなりあります。多分、その一つが今回取り上げるガラパゴスクロアジサシではないかと思います。 私自身もこの鳥の存在は図鑑やガラパゴス観光案内書の中では目にしていたのですが、ほとんど気に留める野鳥ではありませんでした。赤道直下に棲むペンギン、珊瑚礁の海の青で足と水かきを染め抜き、雅楽の主役のように大きく羽を広げ、その自慢の青い水かきを交互に引き上げながらゆっくり歩き回って雌にアッピールするアオアシカツオドリ、子供達が小躍りして喜ぶ、真っ赤で巨大な風船を喉元で膨らませ羽をうち震わせて雌を呼ぶグンカンチョウ、青い空と紺碧の海を背景に優雅に飛び回るアカハシネッタイチョウなど、いわゆるPhotogenicな鳥がガラパゴスには多過ぎるのです。


Galapagos Brown Noddy Tern (ガラパゴスクロアジサシ:Anous stolidus galapagensis)

なかなか頭を水の上に出さないペリカンの首の付け根に乗って、逃げ出す小魚を狙っている一羽と、空中から一匹も逃すものかと見張っているもう一羽。

そんな訳でこの写真を撮ったのも、決してチャンスを待って意図的に狙ったものではありません。まったくの偶然の産物なのです。その日は潮の関係で、サンタ・クルス島のPuerto Ayora(プエルト・アヨラ)から観光船に乗って、島の東岸沿いに北上してPlaza del Sur(プラサ・デル・スル)島に向かうことになりました。湾内にいる間は特別変わったものが見られるわけでもないだろうし、ましてや、船尾から流しているスプーンに魚が掛かることもないし、どうして時間をつぶそうかなあと思案した挙句、島の景色でも撮るかと、標準レンズをカメラ・バッグから取り出すことにしました。狭い湾内を埋め尽くしている豪華ヨットやクルーザー、観光船を見ているうちに、周りの感じがどうもいつもとはちょっと違うようなのに気が付きました。よく見ると、その朝は、頭上を舞う海鳥の数が普段よりもかなり多いのです。水面に小魚の群れが浮いて来ているようで、それを狙って、アオアシカツオドリやペリカン等が集まって来ていました。慌てて野鳥用の長いレンズを装着したカメラに持ち替え、ペリカンのダイヴを狙うことにしたのですが、あの体重の重いペリカンが羽をたたんで、水中に飛び込んで行くスピードはとても速く、焦点が合わないのです。何回か失敗しているうちに、何羽かのペリカンは潜水した後、体は浮揚するのですが、頭を水面に出さないのに気が付きました。そう、あの喉袋を海水と小魚で膨らました頭部が水の中に入ったままなのです。そして、その体の上に小型のカモメぐらいの鳥が乗って海面を覗き込んでいました。ペリカンが海水を吐き出す時に、嘴の脇から逃げ出す小魚を狙っていたのです。中には、ペリカンの嘴や頭を突っついて、小魚を吐き出させようとする強引なのもいました。道理でペリカンが頭を上げなかった訳です。珍しいものを見たなあと思って、その夜ホテルに戻ってからガイド・ブックを開いたら、このクロアジサシは、普通、内海を低空飛行しながら水面近くに浮上して来る小魚の群れを見つけ、それを襲って餌としているが、私が目撃したように、ペリカンにまとい付きその上前をはねて餌にありついているものもある、と書いてありました。鋭い顔つきをしているのもそんな習性のせいかなあと思いました。