Pahumaの蘭園で見た「ドラキュラ」と称する蘭。
今まで、このコラムを「バナナ園の中とその周辺で見られる野鳥と小動物」を主題として作って来たため、動物が中心で植物編がありませんでした。しかし、動物は植物のお蔭で生きていること、そして南米大陸の美しい花々は皆さんにも良く知られており、特に、蘭に関心を持たれている方々が多いので、今回と次回は蘭を取り上げてみました。
エクアドールのバナナ園の中には、今日でも野生の蘭が見られる所も多いのですが、総ての農園で野生蘭を見ることができるという訳ではありません。ざっくばらんに言ってしまえば、35,6年前まで、 つまり野生の蘭が金になるということが皆に知れ渡るまでは、バナナ園の中で野生の蘭を見ることはそんなに珍しいことではありませんでした。そんなある日、ヨーロッパから来た若い移住者がグアヤキール市で花屋さんを開店したと友人が教えてくれました。その花屋さんがエクアドールにたくさん自生している蘭に目を付け、欧米に輸出を始めるのに時間はかかりませんでした。それまで、蘭は国内でかなり安い値段で売買されていましたが、見る見るうちに値を上げていきました。それでも、エクアドールは産地ですので、国際価格と比較すると、今でも安い値段で売られています。
Mindoのロッジ近くに在る牧場の電柱代わりに使用していた木の幹に寄生していた蘭の花。
アマゾンやアマゾンに続く人が殆んど足を踏み入れないアンデス山脈東山麓の雲霧林まで入らなくとも、集落が集中しているラ・コスタ(海岸地帯)から隆起しているアンデス山脈の西山麓、といっても我々日本人にはジャングルとしか映らない密林の中に入って行くと、ただし長いものや、毒蜘蛛には十分すぎるぐらい注意を払わなければなりませんが、自生蘭やブロメリアを見ることは難しいことではありません。もちろん、 Mindo (ミンド)などのようにバードウォッチングやエコツーリスムを売り物にしている場所では、自然保護林が良く管理されていますので、まさに野生の、あるいは、自生の蘭を次々に見ることが出来ます。中には、 Pahuma (パウマ)のように、蘭好きな山主のおじいさんが、自分の山の雲霧林に自生していた蘭を持って来てはハイウェイ脇の庭に鉢植えにして、山の中を3時間や4時間かけて回れない人々に見せている所もあります。 Pahuma へは首都のキートからはハイウェイ沿いに1時間も走れば着きますので、エクアドールへいらっしゃる折があれば、蘭好きの人達は是非一度訪問されると良いと思います。勿論、時間もたっぷりあって、本物の自生蘭を見たい方は Mindo まで足を伸ばすことをお勧めします。
今から七年前、仲間たちと初めて Mindo を訪れたときは、時間が3時間ちょっとしかなく、お勧めの野鳥8時間コースには出かけられなかったので、野鳥には期待していたほどは出会えませんでした。といっても、アンデス・イワドリ、エメラルド・トゥカン、 Swallow-Tailed Kite 、数種のハチドリなど15種類以上の野鳥に遭ったことは遭ったのですが、そこで目にした自生蘭の種類の多さにはとても及びませんでした。帰途につき、テレ・レンズを装着したカメラを担ぎ最後尾をトボトボと歩いていた私の帽子に、がさっ、と落ちてきた物がありました。「蛇」と驚いて足元を見ると、50センチ程の苔むして朽ち果てた木の枝でした。「あれっ、蘭が付いてるよ。」と、同行していた息子に言われて良く見ると、蘭のあの独特な根と茎が苔の間に確認できました。「おおい、蘭が落ちてきたよ。」と、前を歩いている仲間たちに呼びかけましたが、それまで飽きるほど蘭を見ていたので皆、まったく振り向こうともしませんでした。