バナナ園の野鳥と生き物 = バックナンバー =


No.192 Turquoise Jay

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Turquoise Jay (和名:ジュズカケアオカケス 学名:Cyanolyca turcosa)"です。

このコラムを訪れていただいた皆様、有難う御座いました。今回をもって終了いたします。十数年前に「バナナ園には虫の羽音もしない…」と、ある地方紙に書かれた記事を見て、「エクァドールのバナナ園ではそんなことは絶対にない。どうしてそのような記事を書いたのだろう。もう、野鳥や、魚や、虫などを写真に撮って見せて行くしかないだろう。」と、考えたのがこのコラムを書き出した理由でした。

野鳥の写真をと考えたのは、私の父が神宮で大学野球をしていたときに、親しくなった方から写真を趣味にすることを教わり、その影響で私も子供の頃から買って貰ったスプリングで蛇腹が出て来るようなカメラでスナップを撮っていたこと、運動のし過ぎで胸を病み、部活が出来なくなった中学生のとき、友達からメジロやウグイスを飼うことを習い、高校に入学するまで飼っていたので、野鳥が身近だったからです。ここで言い訳ですが、その当時は未だ野鳥を飼うことは法律で禁止されていませんでした。体育の授業などの軽い運動は差し支えない、と医者に言われた時の嬉しさは表現のしようがありませんでした。そのとき母が「自由に走り回れることって、とても素晴らしいでしょ。でも、貴方が飼っている小鳥たちはどうなんでしょう。」と静かに言いました。初めて、「私はなんと自分勝手だったのだろう。」と気が付き、直ぐにメジロ2羽とウグイス2羽を庭に放しました。ウグイスは直ぐに何処かへ行ってしまいましたが、メジロは飛ぶ筋肉が落ちていたのでしょう、庭木の枝から枝へ、ちょっと飛んでは休み、飛んでは休みを繰り返していました。とてもショックでした。「猫が心配でしょうが、私が見ていますから、学校へ行きなさい。遅刻しますよ。」と、叱られて家を出ました。鎌倉から藤沢までの通学電車の中でもメジロのことが頭から離れませんでした。授業中も窓の向こうに広がる麦畑と、長い貨物列車をぼやっと見ていたのを思い出します。2羽のメジロはその日の午後遅く山の方角へ高く飛んで行ったそうです。それ以来、私にとって野鳥は野や森の中で見るものとなりました。50年以上経った今でも野鳥に対する贖罪感が何処かにあります。

本題に戻って、Turquoise Jay(ジュズアオカケス)ですが、何でジュズアオカケスを最後の鳥に選んだのかという理由は、去年の12月に妻と訪れたBella Vista (Upper Tandayapaとも呼ばれますが)で見たこの青い鳥は1枚目の写真のようにかなり近い木々まで来てくれて、とても気に入った写真が撮れたこと、そして2つ目の理由は、この鳥が何とも表現出来ない独特な雰囲気を持っていたことです。2枚目の写真(同じ個体ですが)の鳥は、前を見ていただけなのでしょうが、私には「人間よ、さようなら。俺達鳥はお前達に樹を切られ、山を崩されて、棲み処を奪われ、狭くなり続ける緑を追って、そのうちお前達人間の記憶の中でしか生きられなくなり、最後には、忘却の彼方に消えて行くことだろう。」と、その背中が言っているように思えてならないのです。私は、動物や植物、山や川、そう、自然に、どうも感情移入してしまう癖があるのです。そんな訳で、以前からこのコラムを終えるときはこの鳥にしようと決めていました。

コロンビア南部からペルー北部に至るアンデスの、海抜2000メートルから3000メートルの西山脈にも東山脈にも棲むこのカケスは、あまり人間を怖がらないので写真は撮り易い鳥と言われています。このTurquoise Jayによく似ているのがBeautiful Jay(シロガシラアオカケス)で、こちらはもう少し低い場所、それも西山麓にだけ棲息していますが、数は圧倒的に少なく、レッド・データー・ブックではNT(Near-threatened)に指定されています。この鳥の写真も運良く撮っていますが、谷の潅木の根元にいたのを撮ったのでいまいちです。ただ、このBeautiful Jayを見つけてくれたのもガイドさんのDannyですが、そのとき私はルリムネハチドリを撮るのに夢中になっていたため、ぐずぐずしていて彼の指す鳥を直ぐに撮ろうとはしませんでした。そんな私に彼は焦って袖を引っ張ってまでこのカケスを撮らせようとしました。もっと早くレンズを向けていたら、この数少なくなっているカケスの写真が2枚だけでなくもっと多く撮れていたのでしょうが。しかし、どちらのカケスの方がフォトジェニックかと訊かれたら、私は躊躇すること無くTurquoise Jayだと答えます。

最後に。私がこのグループを離れても、一バーダーとしてエクァドールへはこれからも行く心算ですので、鳥見の場でご一緒することがあるかと思います。その節は宜しくお願いします。有難う御座いました。

Turquoise Jay (和名:ジュズカケアオカケス 学名:Cyanolyca turcosa)

Bella Vista裏山の探鳥コースに出て来たTurquoise Jay。この種の鳥は好奇心もかなり旺盛なので、こちらが静かにしているとかなり近くまで来てくれます。

Turquoise Jay (和名:ジュズカケアオカケス 学名:Cyanolyca turcosa)

同じ場所、同じ個体です。ブロメリアが着生したCloud-forest(雲霧林)にぴったり来る鳥のように思うのは私だけでしょうか。