バナナ園の野鳥と生き物 = バックナンバー =


No.19 Dark-Billed Cuckoo(コミミグロカッコウ)

Photo & Text:Motoaki Itoh

Dark-Billed Cuckoo(コミミグロカッコウ)

Dark-Billed Cuckoo(コミミグロカッコウ)

ウチワサボテンの間に止まっているところ。

前回の、Smooth-Billed Ani(ガラパテロ)のところで、あの黒い鳥は、分類学的にはカッコウの仲間とされていますが、姿も鳴き声も北半球で私たちに馴染み深い、カッコウとはまったく違っていると書きました。“The Birds of Ecuador”によると、私たちが知っているカッコウと近似のカッコウは、エクアドールでは8種見られるそうです。「見られるそうです」と書いたのは、私は、そのうちの1種しか見たことが無いからです。そしてその1種も、バナナ園の脇の林の中で見ただけで、シャッターを切る暇もありませんでした。その時でも、ただ同行してくれていた農園関係者が、「セニョール、あそこにククリージョ(カッコウ)が居るよ。ほら、あそこの木の枝の中ですよ。」と、指差してくれたのですが、おそらく視力が2.5 以上は間違いなくある彼らには見えていても、日本の生活にどっぷり浸ってしまった私には、見えませんでした。「Donde? ドンデ(どこに?)」と繰り返しては、そっちの方向へ、本人は静かに歩いているつもりでしたが、近づくしかありませんでした。当然、カッコウには、近づきすぎた人間を、寛容に受け容れる必要はありません。一瞬、その姿を見たかなと思ったときには、飛び立って行くカッコウの後ろ姿しか、私の網膜には残像として残らなかったわけです。


Dark-Billed Cuckoo(コミミグロカッコウ)

ダーウィン研究所の脇の潅木に止まっているところ。

5年前ガラパゴスに行った時、日本からの同行者の皆が、ゾウガメの説明をガイドさんから受けている間、私はもう何回も同じ説明を聞いているので、外でガラパゴス・フィンチの写真でも撮ろうと思って、足元に寄ってくる小鳥たちを見ていました。ふと目を上げると、体の大きな鳥が、ブッシュの中に止まって居るのが見えました。「カッコウに似ているなあ。だけど、ガラパゴスにカッコウが居るなんてガイド・ブックにも書いてないし、何の鳥だろう。」などと思いながらシャターを切っていると、ガイドさんが出てきて、「セニョール・イトー。珍しいわ、ガラパゴス・カッコウですよ。貴方は運がいいですね。めったに見られませんよ。」と、説明してくれたので、私は、てっきりガラパゴス・カッコウと言う固有種がいるものだと思っていました。

前述の解説書によると、このカッコウは「Dark-Billed Cuckoo」で、「エクアドールの南西部に渡って来るものと、棲みついているものとがある。」そして、この種と近似の「Gray-Capped Cuckoo」は、ガラパゴス諸島で渡りが記録されたことがある、と書かれています。しかし、その特徴から言っても、ここに載せた写真の鳥は「Dark-Billed Cuckoo」です。たまたま、記録が残っていなかったのかも知れません。

ただ、このカッコウが10分近くもの間、私から離れても10メートルぐらいの距離の枝や、サボテンに止まり続けた事実は、大陸から渡って来たと言うよりも、 人間を怖がらないガラパゴスの野鳥の特徴から見て、この島で生まれ育った鳥と考えたほうが正しいのではないかと思うのですが。