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No.188 Gorgeted Sunangel

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Gorgeted Sunangel (和名:ビロードテンシハチドリ 学名:Heliangelus strophianus)

Gorgeted Sunangel (和名:ビロードテンシハチドリ 学名:Heliangelus strophianus)

Collared Inca(シロエリインカハチドリ)とBuff-tailed Coronet(フチオハチドリ)がいなくなった隙にフィーダーへやって来たGorgeted Sunangel (ビロードテンシハチドリ)。

諸事情で、第200回までこのコラムを書いて行くことにはなりそうもないので、残り少ない機会でどの野鳥を取り上げて行こうか、いろいろ考えております。特に今回と次回のハチドリをどれにしようか迷いました。なにせエクァドールには、前回も書きましたように現在確認されているだけで132種のハチドリが棲息していますが、私はそのうち同定済みのものは45種しか写真を持っていません。特に東山麓、西山麓を問わず、アンデス南部雲霧林で鳥見をしたことがないので、未だ多くのハチドリが未見のままです。ただ、手持ちのまだ掲載していないハチドリの写真の中にも、幾多の魅力的なハチドリの写真がありますので、今回と次回に扱うハチドリの選択には時間がかかりました。結局、このアンデス西山麓に棲むビロードテンシハチドリと、東山麓に棲むトルマリンテンシハチドリを載せることにします。

今更ここで書くことではありませんが、ハチドリは新大陸、北中南米大陸とカリブ海諸島に棲息しているものの、単位面積当たりでは各地の雲霧林でより多くの種が見られます。エクァドールのアンデス西山麓の場合ですと、平均して雲霧林は海抜700メートルあたりから始まり、3000メートルくらいまで続いています。La Costa(海岸地帯)にもハチドリは棲息していますが、その種の数はアンデス東西山麓で見られるものよりもはるかに少ないことは、花の蜜に依存して生きているこの鳥達と植生との関係だと思います。つまり、一年中その地に固有のなんらかの花が、時期に応じて低い所や高い所に咲いているアンデス山麓と、乾季には北半球の冬のように葉を落とす木々の多い乾燥森林からなる平坦なLa Costaでは、5月から12月までの期間は限られた少ない植物しか花を咲かせないので、ハチドリの種類も少ないのだと思います。ただし、バナナやコーヒー、マンゴーなど人間によって大規模栽培されている植物という、本来その地に原始の時代から存在した植物ではなく、後に人間によって持ち込まれた植物の花の蜜を吸う習性を身に着けたハチドリもいますが、その数は多くないようです。

Gorgeted Sunangel (和名:ビロードテンシハチドリ 学名:Heliangelus strophianus)

Bella Vistaの山道で羽を休めていたGorgeted Sunangel (ビロードテンシハチドリ)。正面からレンズを向けないと、咽喉下のピンク色は撮れません。

エクァドールのバード・ウォッチングは前にも書きましたが、首都キートの四方に聳える火山の内、西にあるPichincha(ピチンチャ山4675m.)の北西山麓に広がるMindo-Nambillo(ミンド・ナンビージョ)地区と、真東に位置する雪山Antisana(アンティサーナ山5897m.)の北から東に展開するPapallacta-Baeza(パパジャクタ・バエサ)地区と隣接するアマゾン源流部を含む地区の2地域を中心として発展して来ました。例えて言えば、来日する外人観光客にとっての京都奈良と鎌倉日光みたいなもので、初めてエクァドールの鳥見をするバーダーは、まず上記2地域へ行きます。これだけで約6日、時間と体力に余裕のある欧米などのバーダー・グループは、その後La CostaのCerro BlancoとManglares Churuteで乾燥林の野鳥とマングローブの水鳥を観察して、アンデス山麓南部雲霧林に位置するBuena Vista、Tapichalaca、国立公園Caja(カーハ)などを廻るようです。そんなツァーはどんなに日程をはしょっても、もう10日は余分にかかります。そして、何より後述の3箇所でのバード・ウォッチングは近年光が当てられたばかりなので、いろいろな意味で未だ一般的ではありません。私もこの3箇所に鳥見に行ったことは残念ながらありません。そんな訳で、私が撮ったハチドリの写真は未だ45種しかないのです。ペルーに続くエクァドールのアンデス南部には、西山麓はもとより、ペルー・アマゾンに至る東山麓にも、キートを中心とする北部アンデスで見られるハチドリを含む野鳥とは異なったものが棲息しています。ただし、数年前まではエクァドールとペルーの間に国境紛争が数十年続き、時には戦闘状態が発生していた関係で、アンデス東南部には一般野鳥観察ツァーを受け入れる諸施設はインフラを含めて未だ完備していません。

今回載せた2葉のビロードテンシハチドリの写真は、Upper Tandayapaとも呼ばれるBella VistaにあるLodgeの庭と散策路で撮ったものです。このハチドリの濃い緑というかダークグリーンの羽毛と、咽喉下のメタリックピンクの部分、その下に首を伸ばした時に見える白い線がフォトジェニックだと、多くのバーダーがシャッターを切りますが、ハチドリの常で、正面からカメラを構えないとその濃いピンクの部分は、こげ茶色にしか写りません。このハチドリを見るにはBella Vistaへ足を伸ばすのが一番確実です。そして、そこではToucan Barbet (オオハシゴシキドリ)やPlate-billed Mountain-Toucan(イタハシヤマオオハシ)などを見ることも出来るでしょう。ここの訪問は、日本からのバーディング・ツァーの日程には何処の旅行会社のものにも予定されているようです。