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No.186 White-faced Nunbird

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"White-faced Nunbird (和名:シロガオアマドリ 学名:Haploptilla castanea)"です。

White-faced Nunbird (和名:シロガオアマドリ 学名:Haploptilla castanea)

オオガシラの種に特徴的ですが、この鳥もかなり長い間同じ枝に止まっていました。Bella VistaからMindoへ抜ける峠付近で。

次回からはまたハチドリに戻る心算ですので、今回のアンデス山麓の野鳥をなににしようか迷ったのですが、前回触れた、目撃されることも非常に少ない、文字通りの希少種シロガオアマドリを取り上げることにしました。アンデス山麓にはハチドリでなくても、タイランチョウ、フウキンチョウ、カケス、キツツキ、などなど様々な目に鮮やかな野鳥が多いことはよく知られています。私の撮ったものでも写りの良いものを出そうと思っていたのですが、いろいろ考えて、写りに問題があっても非常に珍しい鳥を載せるのも一つの選択肢かと自分勝手に決めました。

未だ一週間も経っていませんが、先日日本の新聞に、コロンビアの西南アンデス山麓で新種のハチドリが発見され、ドイツでそれが新種であることが確認されたという記事が掲載されましたし、他の新聞には、最近世界的に議論されているガラパゴスの環境問題が連載されているなど、エクァドール周辺の自然環境関連記事がマスメディアを賑わせていますので、私もこの鳥を通じて自然環境問題を書かせていただきたいと思います。

まず、このシロガオアマドリ、この鳥が属するオオガシラ科の野鳥はエクァドールには20種が記録されていますが、目に付き難い種、“very rare”、”rare”、 ”scarce”などと説明されている種もいくつかあり、他の科と較べてその比率は高いと思います。この欄でも第107回でWhite-necked Puffbird(シロエリオオガシラ)を取り上げましたが、オオガシラ類は一般的に、La Costa(海岸地帯)においてもアンデス山麓でも頻繁に目する野鳥種ではありません。その中でもこのシロガオアマドリは、遭遇する機会が非常に少なく、その意味では伝説的な野鳥になっています。特にMindo-Nambillo地区のこの鳥が棲息する特定の場所へ行っても、見ることが稀な鳥と言われています。例えば、Tandayapa Bird Lodgeのホームページには素晴らしいこの鳥の写真が載っていますが、この鳥は“A genuinely scarce bird even in pristine habitat. It must occur naturally in very small numbers. They are seen a few times a year. (原始のままの棲息環境の中でも、まさしく稀な野鳥です。実際、非常に少数しかいないはずです。一年間に数回しか見かけません。)”と説明されています。そんな理由からでしょう、この鳥の科学的データが全く不足しているので、Red Data Bookの中で位置付けがされていません。ガイド・ブック“The Birds of Ecuador”の中では、近危急種(NT)であるPlate-billed Mountain-Toucan(イタハシヤマオオハシ)やToucan Barbet (オオハシゴシキドリ)よりも“…is certainly a much rarer bird(間違いなく遥かに稀な鳥です) ”と書かれています。

White-faced Nunbird (和名:シロガオアマドリ 学名:Haploptilla castanea)

距離があっても、霧雨が降っていても、露出を間違えなければ良い写真が撮れた筈なのですが。木の実を啄んでいたシロガオアマドリ。

ここで訂正があるのですが、2002年版“Libro Rojo de Las Aves del Ecuador (エクァドール野鳥レッド・データ・ブック) ”によるとイタハシヤマオオハシ、前回にも触れましたオナガアカボウシインコもワタボウシミドリインコもVU(Vulnerable絶滅危惧II)に悲しい格上げをされていました。ただ、オオハシゴシキドリはそのままNTです。

ここに載せた2葉の写真は、前回のオオハシゴシキドリのところで書いたように12月にBella Vista、またはUpper Tandayapa Valleyとも呼ばれる探鳥地で、アンデス雲霧林特有の濃霧というよりも強い霧雨と言った方がぴったりするような気象条件下で、カメラとレンズを水濡れから守るのにも気を使いながらイタハシヤマオオハシを探し続けているとき、ガイドさんのDannyが見つけてくれたものです。梢にいたシロガオアマドリは、直ぐに分かったのですが、木立の中にいたもう一羽には暫く気がつきませんでした。この鳥に会えるとは思ってもいなかったし、期待もしていなかったので、Dannyは事前に予備知識をくれていませんでした。私もかつてシロエリオオガシラを撮ったときに、解説書でこのシロガオアマドリの存在を知ったくらいでしたので、そのときこの鳥のことは全く念頭にはありませんでした。Dannyが声を抑えながらも、彼らしくなく異常に興奮していたことだけは直ぐに分かりました。霧雨の向こうにレンズ越しで見る野鳥は可愛らしく、なんとも言えない雰囲気を持った鳥でした。私も慌てながら、AFでは焦点が思うように合わないのでマニュアルでリングを回し、絞りを明るいほうへ調整したつもりが間違ってしまい、ひどいアンダーになっているのにその時は気が付かない、というとんでもないドジを踏みました。木立の中のもう一羽は止まった枝の木の実を食べていました。この二羽が番だったのか、親子だったのかは分かりません。

「原始のままの棲息環境の中でもまさしく稀な野鳥です。」との記述を参考にしましたが、現実には、緑が未だ多く残っていると言われるアンデス山麓でも、放牧が可能な緩い傾斜の斜面では、数十年以上も前から森は拓かれ乳牛が飼われています。原生林が残っている所は残念ながら想像されるほど多くなく、それを憂う有志の方々が、その地をかつて覆っていた固有種の木々を植林し始めています。まして、プレ・インカ時代から文明が発達していた首都キートを中心とするアンデス高原台地では、早くから原生林はほとんどの所で姿を消し、後に他の大陸から移入された唐松のようなものやユーカリなどがアンデス高原を覆っています。私が初めてアンデスを訪れた今から44年前には既に、一部の学者や有識者達が、ユーカリは製紙用のチップなどには手軽で経済効率も高いが、この樹木の林には鳥も獣も寄り付かないからその地には固有な木々を再度植えるべきだ、と主張し始めていましたが、今日未だにアンデス高原大地では、どの国へ行ってもユーカリを目にします。