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No.185 Toucan Barbet

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Toucan Barbet (和名:オオハシゴシキドリ 学名:Semnornis ramphastinus)"です。

Toucan Barbet (和名:オオハシゴシキドリ 学名:Semnornis ramphastinus)

Bella Vistaの峠で、一生懸命木の実を啄んでいた小さな群れのオオハシゴシキドリ。

前回のSooty-crowned Flycatcher (ズグロオオヒタキモドキ)の後は、アンデス山麓に棲む、目に鮮やかな野鳥に戻る心算でいくつかの候補を頭に入れていたのですが、5月6日付けのエクァドールの新聞を読んでいたら“Más de 600 especies animales en riesgo(600以上の動物種が危機)”という記事が目に飛び込んで来ました。続いて、エクァドールで見ることのできる1550とも言われる野鳥種のうち130以上に危機が迫っている、と書かれていました。ただこの数値に関してはいくつかの異説もあって、例えば、同国で発売されている観光案内書“Guia de Carreteras Turismo y Ecoturismo(観光とエコトゥーリズムの道路ガイド)”の中では1630種以上の野鳥、2700種以上の蝶と記載されています。全世界の野鳥の18%が見られると言われ、狭い国土(270,000平方キロ)に34もの国立公園や自然保護区を設けている、発展途上国の中では自然環境の維持に熱心なエクァドールでさえそんな状態だとは、この国と日本の間を44年間も行き来していた私も認識が甘かったことを思い知らされました。記事を読み続けて行くと、心配されている野鳥のかなりの種は、どうも私共バナナ関係者の仕事のフィールドであるLa Costa (海岸地帯)固有の種で、人間による仮借ない開発の手を逃れて、今では、過去に繰り返し紹介して来たMachililla-Chongon (マチャリージャ・チョンゴン)、El Cerro Blanco(エル・セーロ・ブランコ)、Churute(チュルーテ)などの国立公園や自然保護区とその周辺でどうにか棲息し続けているようです。絶滅危惧種の筆頭がGreat Green Macaw(ヒワコンゴウインコ)の亜種Guayaquilensisで、このインコを含む9種の絶滅危惧種がCerro Blancoとその周辺に棲息しており、その他にも6種の近危急種が棲息し、その内の2種は第140回掲載のRed-masked Parakeet (オナガアカボウシインコ)と第170回のGray-cheeked Parakeet (ワタボウシミドリインコ)です。

Toucan Barbet (和名:オオハシゴシキドリ 学名:Semnornis ramphastinus)

同じ場所、同じ個体。回りを気にして、首を回したところ。バーダーに人気があるのが分かる気がします。

今回扱うToucan Barbet (オオハシゴシキドリ)もやはり近危急種に指定されています。“The Birds of Ecuador”の説明によれば、このコロンビアとエクァドールのアンデス西山麓にしか棲息していないオオハシゴシキドリは、エクァドールのMindo-Nambillo地区では棲息環境がまあまあ保持されているので、危急度はそれほど高くはないのですが、コロンビアでは棲息環境がかなり悪化していることと、この鳥をペットとして捕獲するため、危機感はより大きいそうです。

ここに載せた2葉の写真を撮ったときもそうだったのですが、どういう訳か、オオハシゴシキドリを見ることが出来たときは、Plate-billed Mountain-Toucan(イタハシヤマオオハシ)に出会えず、その反対にイタハシヤマオオハシを見つけたときには、オオハシゴシキドリに遭遇していないのです。勿論Mindo-Nambillo地区へ詣でた(?)回数が少ないので、その御利益もあまり無いのかもしれません。山の神様(先住民は山の神を信じています)や精霊に、「ちょこちょこっと来ただけで、あれもこれもと欲張るのではない。」と窘められているような気もします。この日は、前回訪問したときには上手く撮れなかったイタハシヤマオオハシの写真をしっかり撮ろうと意気込んで、首都キートのホテルから、前日とはコースを変更して、途中のTandayapa Valleyには立ち寄らず、まっすぐUpper Tandayapaとも呼ばれるBella Vistaへ直行しました。その日は雨季に入った高山特有の霧雨が降ったり止んだりの天気で、霧雨の合間にGorgeted Sunangel(ビロードテンシハチドリ)の写真をじっくり撮った後、野鳥探索路に向かいました。色々な野鳥には会えましたが、肝心なヤマオオハシにはどこを廻っても会えませんでした。ついにBella Vistaでの鳥見を諦めて、午後に予定していた探鳥地Milpeへ行くため峠へ向かいました。そのときの私は落ち込んでいたのでしょう、ガイドさんのDannyが行き止まりの脇道へ入るようドライヴァーのJaironに指示してくれました。車を降りた私達がオニキバシリやヤマフウキンチョウの写真を撮りながら100メートル程も進むと、Dannyが目の前の木の梢を指差してくれました。レンズ越しに見つけたのは5、6羽の小さな群れで木の実を啄んでいたオオハシゴシキドリでした。ちょっと距離があったのと、霧が掛かっていたのが気懸かりでしたが、なんとか写真が撮れました。ツキが来ると、またツキが重なるもので、車に乗って数百メートルも行くと、今度はなんとあのバーダー憧れの希少種White-faced Nunbird (シロガオアマドリ)に会うことが出来ました。霧雨は強くなっていた上に、私が絞りを間違えたので、写真はひどいアンダーになってしまいましたが、その日の昼食で出会ったアメリカ人のバーダーが、自分は3年Mindoに住んで野鳥の研究をしているのだが、どういう訳かWhite-faced Nunbirdには未だ遭遇していない、貴方は非常にラッキーだと言われて、舞い上がってしまいました。同行していた、花好きではあっても、野鳥には詳しくない妻にはこの貴重で希少なNunbirdに会えたことの幸運さが分からなかったようですが、亭主が明るくなったのでほっとしていたようです。