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No.184 Sooty-crowned Flycatcher

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Sooty-crowned Flycatcher (和名:ズグロオオヒタキモドキ 学名:Myiarchus Phaeocephalus)"です。

Sooty-crowned Flycatcher (和名:ズグロオオヒタキモドキ 学名:Myiarchus Phaeocephalus)

El Cerro Blancoのゲイトを入った所の平地部で撮ったもの。タイランチョウは一般的に単独か番(つがい)で行動するものが多いようです。虫を主食としているからでしょう。

ガラパゴスの鳥を取り上げた後は、アンデス山麓の色鮮やかな野鳥へ行こうと思っていたのですが、最近エクァドールの新聞に続けて地球温暖化、ユネスコ日本人幹部のエクァドール訪問、世界自然遺産への新規登録か、などの記事が出ました。その関連で改めて自然保護森林”El Cerro Blanco”のホームページを読み返してみたところ、その中に私が今まで誤認していたことが書かれていましたので、急遽予定を変更してCerro Blancoで撮ったこのSooty-crowned Flycatcher (和名の…モドキというのがどうも馴染めません)を扱うことにしました。

まず、私が間違った認識を持っていたこととは、太平洋に接する国立公園 Machalilla(マチャリージャ) からCerro Blancoの東まで、南東方向へ約140キロ続く、乾燥森林からなる海抜50メートルから600メートル程のあまり高くない山が連なる山塊 Cordillera Chongon-Colonche(チョンゴン・コロンチェ山脈) には、「もう、ジャガーは棲息していない。」と聞いていたので、そう書いて来たのですが、より環境適応能力の高いピューマはもとより、もういないと思われていたジャガーが、その山脈のみならずCerro Blanco内でも目撃されているそうです。確かに、何種類かの鹿やペッカリーなどが、その数は減少しているとはいっても棲息しているのですから、ジャガーがいても不思議ではないのでしょう。今から40年ほど前までは、バナナ園廻りをしている最中でも、よく四輪駆動車を運転してくれていたエクァドール人の先輩から、現地の人々はJaguar(ハグァル)と言うよりも、Tigre(ティグレ:虎の意)と呼んでいるジャガーの話をよく聞きましたし、実際に中部バナナ産地の中心であるQuevedo(ケヴェド)市の西方約20キロに位置する街道町El Empalme(エル・エンパルメ)、今はかつての大統領の名に因んで Velasco Ibarraと町名が変更されていますが、の大辻の角にあった大きな雑貨屋の店先にはピューマやジャガー、オセロットなどの野獣の皮が吊るされていました。

Sooty-crowned Flycatcher (和名:ズグロオオヒタキモドキ 学名:Myiarchus Phaeocephalus)

同保護森林内で、逆光気味になってしまったので、もう一つ頭部の羽色が分かり難いのですが、腹部の黄色い色、サイズなどから、Sooty-crowned Flycatcherだと思います。

ただ最近では、La Costa(海岸地帯)ではアンデス西山麓に住む人々や農園関係者などほとんど誰に訊いても、「もうこの辺りにティグレはいませんよ。」と言われますし、科学的な質問には慎重に答えてくれるガイドさんのDannyでさえ、「此処ミンド・ナンビージョ地区ではジャガーの目撃情報や家畜が襲われたという話は最近聞かないので、もういないのではないでしょうか。」と言っていました。そんな訳でジャガーはもうアンデスの西からは姿を消したのかなあ、と思っていました。猫科の野獣は非常に頭が良いので、上手く人間の目に触れないで生き延びているんですね。なにか、ほっとしました。

さて、本題のSooty-crowned Flycatcherですが、このタイランチョウは、エクァドールのLa Costaからペルーの北部、そう、ほぼRegion Tumbesiana(トゥンベス地方、英語:Tumbesian Region)をその生息域としています。この鳥とそっくりで間違いやすいのが、海岸地帯とアマゾン地方にも棲息するDusky-capped Flycatcher(オリーブヒタキモドキ)で、その違いは頭部の羽毛が、Dusky-cappedは一色で、Sooty-crownedは前頭部が薄いねずみ色をしていること、また、後者の腹部の羽はより鮮やかな黄色だと説明されています。

今までにも、何回か書いてきたのですが、エクァドールの野鳥の同定で一番ややこしいのがタイランチョウで、その理由はかなりのタイランチョウの種がお互い実に良く似た羽模様を持っているからです。この点は図鑑“The Birds of Ecuador”を参照していただくと納得されると思います。光の反射角度と見る者の目線の角度によって、羽の色が異なって見えるハチドリの同定とは別次元の難しさです。まさに私共アマチュア・バーダーが、バナナ園内、その周辺、木立の中、等の所謂フィールドでタイランチョウを見て、その種を同定することなどまず出来ません。見慣れたタイランチョウの4、5種や、声に特徴のあるものを除いては、私にはお手上げ状態です。写真に撮ったものをコンピューターのディスプレイ上に拡大して初めて同定出来るような次第です。