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No.170 Gray-cheeked Parakeet

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Gray-cheeked Parakeet (和名:ワタボウシミドリインコ 学名:Brotogeris pyrrhopterus)"です。

Gray-cheeked Parakeet (和名:ワタボウシミドリインコ 学名:Brotogeris pyrrhopterus)

自然保護区 El Cerro Blanco の庭で綿菓子状の繊維を顔につけながら夢中になって種子を食べていたワタボウシミドリインコ。

このワタボウシミドリインコと第140回に掲載したオナガアカボウシインコはよく混群を作っているようで、私も何回かこの2種が一緒に餌を取ったり移動したりしているのを見ました。輸出用バナナ園のあるLa Costa(海岸地帯)で、運が良ければ目にすることの出来るこの2種と、サニート・バナナ園や有機栽培バナナ園でも、あるいはChongon湖の公園でも比較的簡単に見ることの出来る、Pacific Parrotlet (ルリマメハインコ)は今までにも説明しました、エクァドールからペルーに跨る乾燥地帯“La Region Tumbesiana(トゥンベス地方)”の固有種です。La Costaのインコ類は、諸開発、いわゆる農業開発、宅地開発、都市開発、道路網の整備などによって、原野や丘陵地、山などに残っていた古木、巨木が経済効率の名の下で伐採され、ある果実や種子を食べるように特化されて来たインコ達にとっては、それらが恵んでくれた果実や種子が消滅し、その上、巣を作るところも無くなってしまうという、食料と住居を同時に失う結果になり、その生息数が激減しました。虫喰いの鳥は、殺虫剤に代表される急性毒性の強い化学薬品の使用を停止する、あるいは極端に抑えれば、2、3年で昆虫が戻って来ますので、鳥達も少し遅れて再び姿を現しますが、成長の早い草の果実や種子ではなく、樹の果実や種子を食べる野鳥は一度樹木が切り倒されると、次の樹を植えたとしても実をつけるまでには数年、樹によっては十年以上もかかるので、その地を離れてしまうか、最悪の場合は絶滅してしまいます。古木や巨木を伐採して、緑が消滅したままにしてしまうと、やはり最悪の結果にしかなりません。緑化運動といえば、60代半ばの私が想い出すのは、我が国も終戦直後は、「国破山河在、城春草木深…」の杜甫の律詩がよく新聞紙面を飾り、国を挙げて植林、植樹に力をいれていたためでしょう、テレビの無かった時代、映画館へ行くと、必ず一般の映画が始まる前には、ニュース映画というのが上映され、植林、植樹のシーンが写されていました。それが、何時の間にか、国を挙げての開発ブームに押し流されたのか、緑化運動が下火になったのは残念で、緑保護市条例がある鎌倉でも、住民の反対にもかかわらず、日々市街地の緑が宅地再開発の流れの中で消えて行くのが心配です。

Gray-cheeked Parakeet (和名:ワタボウシミドリインコ 学名:Brotogeris pyrrhopterus)

同じ場所で、充分食べ終えた一羽と入れ替わりに他の一羽が種を啄ばんでいました。

古木、巨木が伐採され続けている逆境の中で、ルリマメハインコが再びその生息数を増やしているように見えるのは、私は学者ではありませんが、多分その食性と、体の小ささ、環境適応能力の高さなどに因るのではないかと思います。一方、他の2種、特にオナガアカボウシインコは年々目撃例が少なくなっているようです。自然保護区“El Cerro Blanco”のボランティアー・ガイドさん達もこのアカボウシがいると、一生懸命教えてくれますが、ルリマメハインコにいたっては、日本でいう普通種扱いで、通り一遍の扱いしかしてくれません。このワタボウシミドリインコは、アカボウシ程ではないものの、かなり熱心に説明してくれます。また、ワタボウシミドリインコは、他の大型、中型インコと同様ペットとして人間に捕獲されて来たので、人に対する警戒心は非常に高いと言われています。現に、農園や牧場に残っている林の脇を通ると、高い木の梢から数羽の小さな群れが、カメラを構える間も無く飛び立って行くことが今までに何回かありました。

今回載せた2葉の写真は、12月にガラパゴスから戻ってきた日曜日の午後4時に市内のホテルを出て、5時の閉門前に滑り込んだ自然保護区“El Cerro Blanco”の麓に広がる林の中で撮ったものです。その時間に入場する人間はほとんど無く、たまに保護区内のキャンプ場で泊まる客以外はいなくなるので、その日もボランティアーのガイドさん達は帰宅して、管理人と私達3人だけが広い場内に残りました。山へ入る心算は全く無かったのですが、よくオナガアカボウシインコに出会える休憩所へ、いつも頼むヒルトン・ホテルの個人タクシーSr. Ramon Espinoza(ラモン・エスピノーサさん)の車でゆっくりと向かいました。200メートルも進むと、騒々しいインコの鳴き声があちらこちらか聞こえてきました。大喜びで車を降り、廻りを見回すと、ガイド・ブックによれば普通は大きくても12、3羽の小さな群れしか作らない筈のワタボウシミドリインコが、弾けた種子を付けた数本のどの木にも群がって騒いでいるのが目に入りました。最初は、私達を警戒していたのでしょう、高い梢の種子の周りに集まっていましたが、次第に低い枝に降りてきました。あんなに落ち着いてこのインコを観察出来たのは初めての経験でした。