エナーノ農園で餌を探しているところ。
「バナナ農園では、どの野鳥の鳴き声を最も頻繁に耳にしますか。」と聞かれたら、私は躊躇することなく、この鳥、"Chochin Criollo(イエミソサザイ)"と答えます。
この小鳥は人間を怖がらないので、警戒はしているはずですが、人々の生活の場のすぐそばに巣を作ります。物置の軒先、撰果場(Packing House)の梁とトタン屋根の小さな隙間、バナナ園の中の、廃車にされて、もう子供たちでさえ遊び道具にしていない、錆だらけでボロボロになってひっくり返ったトラック、多分、その中に入って怪我でもしたらお母さんに怒られるのがわかっているからでしょうが、そんなトラックの排気管の中などにも、巣を作っています。
サニート農園でバナナを吊るして運ぶケーブルに止まり、縄張りを主張して鳴いているところ。
何年か前、ある商社の人と同業者たちと、バナナ園視察に同行したときのことでした。
最初に訪れたEnanoバナナの撰果場で、30分あまりも経ったころ、その人がきょときょとと周りをしきりに見回しているのに気がつきました。そのとき、すぐそばに来たので、「ほら、そこに、小鳥が居るでしょう。」と指差すと、「ああ、この小鳥ですか、さっきから鳴き声が聞こえていたのは。」「伊藤さん、私はどこにスピーカーがあるのか探していたのですが、この鳥が鳴いていたのですね。スピーカーからテープに録音してある鳥の声を流していたんじゃないんだ。」と言われて、「そうか。この人のように青果物に長年携わって、日本国内はもとより世界中を歩いてきた人でも、こんなに野鳥のさえずりがひっきりなしに聞こえる所へ来たことはなかったのか。」と、複雑な気持ちになったのを思い出します。