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No.169 Baron’s Hermit

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Baron’s Hermit (和名:不明 学名:Phaethornis baroni)"です。

Baron’s Hermit (和名:不明 学名:Phaethornis baroni)

ほとんど真横から撮れたので腹部の羽根の色が良く分かり、助かりました。開いたばかりのオリートの花の蜜を吸っていたBaron’s Hermit。

アンデスのハチドリ3連載が終わったので、山地と平地の派手な羽色の野鳥に行こうと考えたのですが、幾つかの私的な理由から結局、バナナ園内で撮った野鳥と、La Costa(海岸地帯)の探鳥地でグァヤキールの郊外にある、El Cerro BlancoとRepresa de Chongonで撮った野鳥の中から、バナナ園内で撮ったものとは一味違う写真を扱うことにしました。

今回取り上げるBaron’s Hermitの和名が、またしても見つかりませんでした。また何か理由があるのではないかと考えて、The Birds of Ecuadorを読んでみました。そこには、1996年にこのハチドリをLong-tailed Hermit(ユミハシハチドリ:Phaethorinis superciliosus)とは別の種とした、と説明されています。時間的な問題で、私がいつも参照させて貰っているデータには未だこのハチドリの和名が載っていなかったのでしょう。これでひとまず和名の件は何となく分かりました。この本ではこのハチドリを“a near-endemic of Ecuador”と説明していますが、エクァドールのLa Costa中部からペルー北部を抱える乾燥地帯を“La Region Tumbesiana(トゥンベス地方)”と呼ぶ表現を使うCerro Blancoの解説書では、“Aves endemicas de La Region Tumbesiana(トゥンベス地方固有種の野鳥)”の中に入れています。 “Tumbes(トゥンベス)”と言うのは、エクァドールとの国境にあるペルーの町の名前で、インカ、プレ・インカの時代から由緒のある集落ですが、長年両国間でその帰属が議論されて来た所ですので、例え学問的な一表現であっても、この表現を好まない人達もいます。


Baron’s Hermit (和名:不明 学名:Phaethornis baroni)

偶然撮れたのですが、このポーズだと、嘴の長さや形、尾羽の特徴がはっきり認識できます。

昨年春先に、十数年ぶりに、延べ二ヶ月の産地視察を中心にしたエクァドール滞在をしたので、普段得意先を引率しての産地廻りでは足を伸ばすことのない農園まで見ることが出来ました。そのお陰で、それまで目にしたことのなかった野鳥、バナナ園内では気が付かなかった野鳥等を写真に収めました。今回のBaron’s Hermitもそのうちの一つで、以前にも書いたことがあるのですが、バナナ園内で見るハチドリは殆どがRufous-tailed Hummingbird(ハイバラエメラルドハチドリ)と、Amacilla Hummingbird(チャムネエメラルドハチドリ)だとばかり思っていましたが、La Costa中央部のSr. Hoyos(オージョスさん)のサニート農園とその周囲、南部の有機バナナ栽培農園とサニート農園が固まっているTenguel(テンゲル)地区では、Long-billed Starthroat(ハシナガハチドリ)の雌の写真も撮れましたし、Mana地区のオリート農園では、このBaron’s Hermitも撮れました。ただし、バナナ園内や山野にいるハチドリは、MindoやTandayapaなどでフィーダーにやって来るハチドリ達とは違って人馴れしていません。15メートル以内に近寄ることは先ず出来ませんので、ハチドリを正面から撮ってやろうなどと思うと、証拠写真さえ撮ることが出来なくなります。シャッター・チャンス云々などという問題ではありません。

ここに取り上げた2葉の写真は、Manaの町を通ってアンデス越えをし、Zumbahuaに抜ける幹線道路から南へ3キロ程山道を入ったオリート農園で撮ったものです。この農園は第142回のThick-billed Euphonia(ハシブトスミレフウキンチョウ)の若鳥を撮った所で、四輪駆動車で山道を走っていると、このオリート農園の中で十数羽の野鳥が騒いでいるのに気が付きました。車を止めて貰って奥の方を見ると、Hermit(ユミハチドリ)がオリートの花の周りを飛び回っているのが目に入ったので、距離はあったのですが、先ずシャッターを数回切って、農園の中に足元を気にしいしい入って行ったところ、私の侵入に驚いた小鳥たちが一斉に飛び立ったため、その羽音に驚いてハチドリも飛んで行ってしまいました。最初は、TandayapaやMindoで見るTawny-bellied Hermit(キバラユミハチドリ)かと思ったのですが、撮った写真をコンピューターで拡大して、ガイド・ブックのイラストと丹念に較べてみたら腹部の色が少し違うことと、説明されている生息域から、Baron’s Hermitだということが分かりました。