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No.168 Chestnut-breasted Coronet

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Chestnut-breasted Coronet (和名:チャムネフチオハチドリ 学名:Boissonneaua matthewsii)"です。

Chestnut-breasted Coronet (和名:チャムネフチオハチドリ 学名:Boissonneaua matthewsii)

海抜2700メートル強の高さにあるGuango Lodge。午前の柔らかい日の光の下で、羽を休めていたChestnut-breasted Coronet(チャムネフチオハチドリ)。

このハチドリは胸から腹部にかけて赤が強い茶色で、前回取上げたFawn-breasted Brilliant(チャムネテリハチドリ)の薄い赤茶色の羽毛とは明らかに違うので、よく見れば、茶色と一口に言っても、その色合いや模様が大きく異なっていることに気が付くのですが、ハチドリを見慣れていない人の目には混同して映ることもあるようです。これは“Boissonneaua Coronet”の仲間で、前回のものは“Heliodoxa Brilliant”の仲間なのです。 Coronetの仲間は、Velvet-purple Coronet(フジイロハチドリ 第166回掲載)、 Buff-tailed Coronet (フチオハチドリ)とこのチャムネフチオハチドリの三つがあって、そのどれもがエクァドールで見られます。

チャムネフチオハチドリは私が慣れて来た Tandayapa Valley やBella Vista、 Mindoがあるアンデス西山麓のMindo Nambillo地区には棲息していません。西山麓の場合は、南部の雲霧林にいると説明されていますが、未だ行ったことはありません。このハチドリをアンデス東山麓で見るのは難しいことではありませんし、運の良し悪しに左右されることなどもありません。首都のQuito(キート)をベースとして東山麓の鳥見をする場合、Papallacta (パパジャクタ)の4000メートルの峠を越えて車で2時間程で行かれるアンデス東山麓のGuango Lodgeが、手軽な上にハチドリに限らずアンデス東山麓固有の様々な野鳥を見ることが出来るので、欧米からのバーダー達も必ず立ち寄っていますし、エクァドールの野鳥愛好家達が推薦してくれるスポットでもあります。アマゾン河の源流部にあたるこの辺りも、一般に想像されるよりは道路も最近立派に整備されていますので、今では呆気ないぐらい簡単に行かれます。欧米からのバーダーやTV番組の制作チームは、Papallactaの温泉地に建てられた立派なロッジを宿泊基地として、アンデス高地や東山麓の動植物を撮っているようです。12月に行ったときは、水着に着替えてロッジ内に幾つもある日本でいう「露天風呂」に浸かりながら楽しそうにしている人達を見掛けました。露天風呂の脇に植えられたブーゲンビリアの花々の間を2、3羽のハチドリが飛び回っており、いつか海抜3500から4000メートルのアンデス高地での鳥見で、冷え切った体を温泉で温めて翌日に備える、なんていう贅沢なバード・ウォッチングを私もやってみたいなあ、と思いました。因みに、帰り道にその温泉ロッジで遅い昼食をとったときに食べた、近くの渓流で養殖された1キロはあったであろう虹鱒の半身をムニエルにしたものは美味しかったです。

最初の一枚は、前記のGuango Lodgeの、様々な蘭が植えられている庭で撮ったもので、そこではこの他にもWhite-bellied Woodstar (シロハラチビハチドリ)、Sword-billed Hummingbird(ヤリハシハチドリ)など西山麓でも見られるハチドリや、 Tourmarine Sunangel(トルマリンテンシハチドリ)、Viridian Metaltail(キンミドリテリオハチドリ)などのような東山麓でしか見られないものなど、10種程のハチドリを短時間のうちに撮ることが出来ました。温泉に浸かっての鳥見は限られた時間の中では残念ながら出来なかったので、ここのロッジのデッキに設けられたCaféでハーブ・ティーとケーキの十時を、ハチドリ達を見ながら妻とガイドさんのDannyと三人でゆったりと味わいました。

Chestnut-breasted Coronet (和名:チャムネフチオハチドリ 学名:Boissonneaua matthewsii)

フィーダーのネクターを飲み続けるChestnut-breasted Coronet (チャムネフチオハチドリ)。その羽はアマゾン上流部の強い陽を撥ね返して、生き物の羽の色とは信じられないような輝きを放っていました。

二枚目は、Guango Lodgeからさらに1時間ほど、Rio Papallacta(パパジャクタ川)の渓谷に沿って東へ、アマゾンへ向かって降りて行ったところにある同系列のロッジ、“Cabanas San Isidro”で撮ったものです。 此処へ着いたのは正午近くでしたので、赤道直下の陽は頭の上から強烈に照らしていましたが、ネクターを飲みにフィーダーへやって来るハチドリ達がおり、その中でも、このChestnut-breasted CoronetとGreen Violetear(ミドリハチドリ)そしてLong-tailed Sylph(アオフタオハチドリ)の3種が餌場の主導権を持っているようでした。強烈な直射日光を反射するこのハチドリの羽の強いメタリックな輝きは私の網膜に強い残像を焼付け、今でもその時のショックをまざまざと思い出します。