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No.166 Velvet-purple Coronet

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Velvet-purple Coronet (和名:フジイロハチドリ 学名:Boissonneaua jardini)"です。

Velvet-purple Coronet (和名:フジイロハチドリ 学名:Boissonneaua jardini)

レストランの玄関脇にある木立に来ていたフジイロハチドリ。咽喉の下の色がもう少し明るく映っていたら、言うことないのですが。でも、フラッシュは焚きません。

今回はある意味では最も扱うのが難しいハチドリを色々迷った挙句、取り上ることにしました。なんで私にとってそんなにややこしいのかと言うと、このフジイロハチドリは、エクァドールの多くのバーダーやロッジ経営者、私が良く読ませていただいているコスタ・リカ在住のバーダーの方を含めて、世界のハチドリに詳しい野鳥愛好家の方々が「エクァドールのハチドリの中では最も美しいのではないか」と書いている上に、野鳥専門家、例えば、ガイド・ブック“The Birds of Ecuador”の著者も“Spectacular”と表現しているのですが、私の好みはかなり違うからです。この鳥は、ハチドリの特徴である(特にその頭部と咽頭部の)羽色が、鳥と見る者の目線が作る視角、光の具合によって、様々に変化して映るのです。ただ、その変わり方が他のハチドリよりももっと劇的で、安っぽい言いかたをすると、まさに七変化です。ある角度では、単に黒っぽい羽としか映らなかったり、ほんの少し角度が変わると青く映ったり、また、ときには紫色(purple)に映ったりします。その上ハチドリの常で、樹間に羽を休めているとき、梢で頭を高く保ち周りを見回しているとき、フィーダーに来てネクターを吸っているときなど、その場、その状況によって姿勢が違うのです。その姿勢の違いも羽の光の反射角度を変えますので、当然、羽色が違ってきます。そんな訳で、ごく限定された地区でしか見られないこのハチドリを、私が4月に1箇所、12月に2箇所、計3回訪問して撮った180枚程の写真に限っても、大まかに分けて5パターン程の異なる羽色の組み合わせが観察できます。勿論、対象となったフジイロハチドリは唯一種です。このフジイロハチドリに変種や亜種が存在するとは今まで聞いたことはありません。30種を超える野鳥が見られたスポットで、なんで180枚もの写真を唯一つのハチドリだけに費やしたかというと、私はこのハチドリが頭を高く上げて周りを見るときに、光との角度によって頭の先から咽喉、胸にかけて美しい紫色に映る時が最もフォトジェニックだと思うのですが、撮っても撮っても自分が納得できるものが撮れなかったのと、このハチドリがちょっと頭を動かす度に異なった羽色が液晶モニターに映り、これでもない、あれでもない、とシャッターを押し続けているうちに180枚を超えてしまったのです。3回の訪問のうち2回は夫婦二人だけの純粋にプライベートな鳥見だったので、ほとんど気儘に時間を使えたことももう一つの理由です。180枚の内からこのハチドリの特徴を伝えようと2枚を選ぶのは頭の痛い仕事でした。

一枚目の写真は、この4月にMindo Lomaにあるレストラン・ロッジ“Sachatamia”で、以前にも書きましたが、ヨーロッパから来た女性フォトグラファーが、我が物顔でフジイロハチドリが飛んで行ってしまうまでフラッシュを焚き続けて写真を撮って行った後、やっと戻って来たハチドリを撮ったものです。確かに、至近距離で正面からフラシュを焚けば、多分胸の部分も光って見えるのでしょうが、どうしてもそんな行為には同意しかねます。そんなことをするのは、そのお年の女性に限ったことではなく、アメリカからTandayapa Bird Lodge に来た若いカメラマンも同道していた助手にフラッシュを、バッテリーを交換しながら30分以上も焚かせ続けて撮影していました。その反面、今回の休暇中、Mindo Lomaで、アンデス東山麓で、最後にはガラパゴスのLos Gemelosでも偶然お会いした10人程のアメリカ人のバーダー・グループは、何処でも前の観察者が野鳥を見終わる、撮り終わるまで、静かに順番を待っておられ、場所を交代するときには、”Thank you”と声を掛け、薄暗いMindo Lomaでも、光が足りない東アンデスのGuango Lodgeでも誰一人として、フラッシュを焚くバーダーはいませんでした。

Velvet-purple Coronet (和名:フジイロハチドリ 学名:Boissonneaua jardini)

レンズとフジイロハチドリの間に厚いガラスが無ければ最高なのでしょうが。そうしたら、ハチドリ達はこんなに近くで写真を撮らせてはくれないでしょうね。右のハチドリの頭部は、角度が変わるだけで、黒にしか映っていません。

二枚目の写真は、この休暇でやはり“Sachatamia”に行き、そこで昼食をとっていた時に窓ガラス越しに撮ったものです。その時は、野鳥を撮っていたのは私一人で、ガイドさんのDannyと妻の三人でそこの庭で誰に気兼ねすることもなくシャッターを押し続けていたのですが、他のハチドリはまあまあ満足するものが撮れたのですが、フジイロハチドリのものはどうしてもこれと言ったものが撮れませんでした。ちょっと気落ちして、窓際の席で食事を始めたとき、右側の窓の外に置いてあるフィーダーにフジイロハチドリが来ているのに妻が気付き、教えてくれました。ハチドリ達は人間と自分達の間にある大きく厚いガラスが身の安全を保障してくれるのを知っているのでしょう、私が立ち上がってガラス越しにレンズを向けてもちっとも動じることなく、ネクターを吸い続けていました。このハチドリをこんな角度から見たのは初めてでしたので、そのメタリックに輝く羽の色は衝撃的でした。