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No.161 Tropical Gnatcatcher

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Tropical Gnatcatcher (和名:カオジロブユムシクイ 学名:Pilioptila plumbea)"です。

Tropical Gnatcatcher (和名:カオジロブユムシクイ 学名: Pilioptila plumbea)

Bosque Protector Cerro Blanco (セロ・ブランコ保護森林)、ネムノキの花の脇で餌を採っていたカオジロブユムシクイ。

今回取り上げる、この日本でも見馴れたカラ類の小鳥に似た鳥は、メキシコの南部から中米、エクァドールでもアンデス山脈を挟んで、西のLa Costa(海岸地帯)と東のアマゾンの低地、ペルー南東部そしてブラジルの北東部に至る広い地域に棲息しているとガイド・ブックに説明されています。この鳥を私が初めて見たのは、今まで何回も書いて来ましたMocache市の女性市長さん“Sra. Andrade(アンドラーデさん)”のサニート農園でした。そのときはエクァドールでは一番気温が下がる9月、日中の最高温度は30度近くになりますが夜間は18度、ときにはそれ以下にもなる乾季で、イネ科の草をはじめとして多くの草が実をつける時でした。3ヘクタール程の広い堆肥圃場で、農園見学者に対する堆肥作成に関する一通りの説明が終わり、その時のグループには野鳥に興味を持った仲間がいたので、堆肥場の上の電線に止まっていた、誰もが気に入る真っ赤な羽のベニタイランチョウを指差したところ、他の仲間達も戻って来て、私に「あの黄色い鳥は、あちらの白いのは」等と質問し出しました。嬉しくなって、その高台に作られた堆肥場から見ることの出来た12、3種の野鳥の名前を次々に口にしたのですが、一度に多くの野鳥の名前を言われたので、その一人の仲間を除いては皆飽きてしまったようでした。ちょうどその時、実をつけた草木が生えている、堆肥場の垣根の所にヒムネシトド、カワリヒメウソ、シコンヒワなどの混群が現れたので、そうっと近づいて行き、レンズを向け、シャッターを切り続けていると、その中にカラに似た小鳥がいるのに気が付きました。しかし、なにせ開けた農地にいる小さな野鳥達は警戒心が強いので、20メートルより近くに近づくことが出来ず、この小鳥の特徴は掴めませんでした。日本へ帰って来て、ポジを現像してルーペで見たのですが、被写体ぶれ、ピンボケ、手ぶれで証拠写真にしかならない写真ばかりでした。手振れ防止レンズが未だ発売されていなかったので、三脚使用は時間的な余裕が無く、一脚に長いレンズを付けて写真を撮っていたこともその原因の最たるものだったのですが。ただ、この時からエクァドールにもカラに似た野鳥がいることだけは頭に入れていました。その後も、何回かこの鳥を見たのですが、近くへ寄って写真が撮れなかったので、気にしていながら同定もせず、ある意味でほったらかしにしていたのも事実です。

Tropical Gnatcatcher (和名:カオジロブユムシクイ 学名: Pilioptila plumbea)

同じ個体を別の角度から。私からは15メートルちょっと離れていました。35mmカメラとの画角比で、400mmのレンズが640mm相当になるといっても、この小さな野鳥を撮るのは大変です。Mindo-Nambillo地区のハチドリを撮るのとは違います。

何でそんなに珍しくない野鳥をバナナ園内で見ることが少なかったのか、と訊かれそうですが、その理由は二つで、第一は、この鳥は普段Canopy (樹冠部)にいることが多く、地面近くにはあまり降りて来ないそうで、第二は、意外に思われるでしょうが、産地視察でバナナ園廻りをしていると、その間に本格的な探鳥をすることはほとんど無いのです。つまり、仲間達と手入れが行き届いたバナナ園を車で見て廻っていると、農園内やその周辺に、何らかの理由で残された二次林や原生林の一部の脇を通る際には、珍しい鳥を見つけたとき、あるいは、何かあまり見かけない動物が横切ったときでもないと車は止めません。お客様や仲間に万が一の間違いが起きるのを避けるため、つまり毒虫、毒蛇、犯罪者などに出会う可能性の高い場所で車を止めないことは、中南米の中でも比較的治安の良いエクァドールであっても引率者の大事な心掛けの一つだからです。バナナ園の中や周りの林の中へ入っての本格的な探鳥はやったことがありませんし、獣道以外、道のない所で雑草を踏み分けて入り込むような無謀な真似はできません。猛毒の蛇、X(エッキス)やCoral (サンゴヘビ) が怖いですから。つまり、農地開発で行く所のなくなった爬虫類や小動物がそんな所に逃げ込んでかなり棲息しているのです。そんな訳でバナナ園内を廻っているとき、バナナの葉や茎、電線、杭、並木などに止まっていて簡単に見られる野鳥、二次林の端に出て来た鳥などの写真はよく撮っているのですが、そんな所に出て来ない鳥たちは、なにかの拍子に人目に付く所へ出てきた場合以外、写真に撮ることは出来ません。

一方、ちょっと恥ずかしい話ですが、我々が携わる食品業界、監督官庁関係者にはタバコが辞められない人達が未だかなりいました(現在未完了形)ので、一時間も車で走っているとスモーキング・タイムが必要になりますが、そんなときは見晴らしの良い場所で車を止めます。結婚を期に禁煙をした私は、小休止を利用して野鳥撮影をしますが、見晴らしの良い場所で撮れる野鳥の種は限られていて、樹冠部にいるような野鳥はあまり撮っていません。

ここに掲載した写真は二葉とも、Guayaquil (グァヤキール) 市の西16キロの所にある自然保護地区“Cerro Blanco”で、乾季が終わり雨季に入る前に撮ったものです。第149回に取り上げた“Southern Yellow-Grosbeak”を同公園の鋼鉄の門を入って直ぐに撮ったあと、平地の探鳥散策路に入って間もなく、ネムノキに似た木の梢で動き回っていたこのカラ似の小鳥を見つけました。日本のカラ類とは異なって、一羽で行動していました。更にCerro Blancoにある3つの山間探鳥散策路の中で、2番目に難易度の高い山道に入って暫くすると、やはり一羽でいたカオジロブユムシクイを見つけました。女性市長さんのサニート農園で見た時は混群の中にいましたので、このカラ似の野鳥は単独で行動するのか、番や、群れで行動するのかは分かりません。