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No.16 Lemon Rumped Tanager

Photo & Text:Motoaki Itoh

Lemon Rumped Tanager

Lemon Rumped Tanager

Lemon Rumped Tanager en Orito:オリート農園でお腹いっぱい食事した後、やって来た人間を避けて葉の上に避難したところ。

塩漬けして干しただけの獣の皮が、独特な臭いを辺りに漂わせて、店先に幾つも無造作に吊るされた、そんな店ばかりが10軒ほども軒を並べた、グァヤス河に面したマレコン通りを、きょときょとしながら宿泊していたホテル・フンボルトに戻っていた時、脇をインディオの父親と、両手に木の枝でできた粗末な鳥かごを下げた男の子がすり抜けて行きました。

野鳥が好きな私は、そのかごの中の鳥に目を惹きつけられてしまいました。ビロウドの黒い体で、腰の辺りが鮮やかな黄色をした精悍な野鳥、「カシーケ」。

インディオの親子は、おそらく若い東洋人に鳥を買う余裕などないと思っていたのでしょう、急ぎ足で行ってしまいました。

それは1963年の7月、私が初めてエクアドールにバナナ船積み立会いのため、出張した時のことでした。そのあと何年かは、バナナ園視察をする度に、この鳥を1日のうち2、3回は、ジープの中から目にしました。この鳥の腰の部分には、鮮やかな黄色の丸い模様があり、飛ぶ度にその黄色の模様が目に飛び込んでくるので、強烈な印象が残るのです。


Lemon Rumped Tanager

Lemon Rumped Tanager en Recuerdo:サニート農園の堆肥場に集まる昆虫(バッタ類)を捕まえて食べようとしてるところ。

翌年の雨季、仕事の都合で、体中をアチョーテという木の実の汁で真っ赤に塗る習慣を持つ、コロラド(Colorado)インディオが住むサント・ドミンゴ地方に出張し、翌朝バナナ園を視察しに、まったく舗装されていない狭い道をジープで上下左右に、まるで文字どおり荒波にもまれるように、体を揺すられて出かけました。驚いたことに、ジープは時速30キロほどしか出ていないのに、次々と木立から飛び出して来る、黒と黄色の野鳥がフロント・グラスにぶつかるのです。このカシーケとエウフォニアでした。

いくらモータリゼイションが進んでいない41年前とはいえ、30キロも出ているかどうかの遅い車に次々と野鳥がぶつかるのは、悲しいと同時に驚きでした。
いまでもサニートの田辺農園に、木の実や草の実が落ちる7月ごろに行くと、車の前から次々とこのカシーケや、Social Flycatcher(アカボウシヒタキモドキ)が飛び立ちます。