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No.159 Black-chested Mountain-Tanager

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Black-chested Mountain-Tanager (和名:ムナグロキバラフウキンチョウ 学名:Buthraupis eximia)"です。

Black-chested Mountain-Tanager (和名:ムナグロキバラフウキンチョウ 学名:Buthraupis eximia)

Yanacochaの山道の脇に出て来たBlack-chested Mountain-tanager. 横の赤くぼやけて写っているのは、ホクシャの花です。

今回取上げるBlack-chested Mountain-Tanagerの同定にはまたも手こずりました。その第一の原因は、ガイド・ブック“The Birds of Ecuador”に書かれているイラストと、私が撮った写真の鳥が与える印象が非常に異なっていたからです。この野鳥ガイド・ブックをお持ちの方は“Field Guide”の“Plate 88 Tanager V”のイラストを参照して下さい。何よりも違うのは色調で、頭部の青、背中の緑、胸部の黄の三色なのですが、フウキンチョウの羽は、ハチドリのように見る角度によってその色が全く別の色に映るとは理解していないので、この相違については未だ納得出来ません。第二は、私が見慣れている低地や山麓のフウキンチョウは9センチからせいぜい13センチ位の大きさで、この鳥のように21センチちょっともある大型のフウキンチョウを見たのは初めてだったことです。確かに、Mountain-Tanagerは平均的に大柄のものが多い事は認識していたのですが、これ程大きなフウキンチョウがいるとは思いませんでした。そんな訳で数ヶ月も同定が出来ずうろうろしました。

ただ、必ずこの鳥はガイド・ブックの中で解説されている筈だと思っていたのは、前にも書いたことがあるのですが、エクァドールの生物研究、特に動植物の研究は、La Costa(海岸地帯)のアンデス西山麓の海抜200から500メートル位の低い集落や畑と原生林、二次林が混在しているような所は、案外死角のようになっている反面、ガラパゴス諸島、アンデス高地、アマゾンの諸地域ではとても盛んで進んでいるのが現状ですので(もちろんアマゾン地域はいまだ未開拓、未開発の地域が広く、他の2地域と同じレベルで語ることは妥当ではありません)、キート近郊のYanacochaで撮影したこの野鳥がガイド・ブックに漏れている筈がないと確信していたからです。その良い例が、我々グループの農園Hacienda Clementina(クレメンティーナ農園)内の北側にある、2000ヘクタールのBosque Protector(保護森林) “Cerro Samama(サママ丘陵)”です。この保護森林は“Nature Reserve Cerro Samama”と英訳され、土地所有権は個人に属したままでありながら、その管理は国家が行う自然保護区に指定されています。此処では定期的にスウェーデンのGotland Universityの生物学研究チームが科学調査を行っていますが、その報告書には、そこで見られる約10パーセントの植物が“are still unkwon to science”と信じられないようなことが書かれています。自然破壊が進み、本来の自然が残っていないと思われているこの地域に、一部の研究者を除いては、調査の対象としての魅力は感じないのか、La Costaとアンデス西山麓は科学的研究の落とし穴になっているような気がします。

Black-chested Mountain-Tanager (和名:ムナグロキバラフウキンチョウ 学名:Buthraupis eximia)

この鳥の背中です。モスグリーンのようにくすんで見えますよね。ガイド・ブックのイラストの色調とは違いすぎます。ガイド・ブックに描かれたような羽の鳥が、他の地域には棲息しているのかも知れませんが。

この目にすることの少ないMountain-Tanagerに出会ったのは、Yanacochaで第156回に掲載したRainbow-bearded Thornbill(ニジイロコバシハチドリ)の巣作りに励む雄の写真が撮れた後、さらに海抜3500メートルに作られたインカ時代のCamino real(王の道)をヤリハシハチドリを求めて第3フィーダーに向かって歩いている時でした。突然一羽で姿を現したのですが、枝に止まった位置が私からは逆光で、羽模様も見えず、サイズも大きく、黒っぽいので、その辺でよく目にするGreat Thrush(オニツグミ)かと思いましたが、よく見ると全く違った初めて見る鳥だということに気が付きました。「逆光だよ。まいったなあ。それでも、まず一枚は撮っておかなくては。」と、3、4回程シャッターを切っていると、私の存在に慣れたのか、葉が茂った枝から裸の枝の所へ出て来てくれましたが、未だ逆光状態は抜けていませんでした。この鳥は余程好奇心が旺盛なのか、あるいは、Yanacocha Reserveでは人間が野鳥を苛めないと知っているのか、次には、私の目の前、10メートル程の枝まで舞い降りて来てくれました。もう少しこの鳥の写真を撮っていたかったのですが、ガイドさんのDannyが、“Un colibri pico espada se encuentra en el otro alimentador.(ヤリハシハチドリがもう一つのフィーダーに居ますよ)。”と教えてくれたので、慌てて50メートル程奥のフィーダーへ走って行きました。そんな時は高地の息苦しさも半分忘れているのですから、不思議なもんですよね。