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No.158 White-tailed Hillstar

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"White-tailed Hillstar (和名:ルリムネハチドリ 学名:Urochroa bougueri)"です。

White-tailed Hillstar (和名:ルリムネハチドリ 学名:Urochroa bougueri)

薄曇の日、蘭園“Pahuma”で来場者が少なくなった時、やって来たWhite-tailed Hillstar.。逆光の中でも胸の羽が正にルリ色に光っていました。

この第26回に既に掲載しているルリムネハチドリを再び取り上げることにしたのには幾つか私なりの理由があるのですが、その一つは、その当時は未だこのハチドリについては全くと言って良いほど知識がなかったのですが、その後The Birds of Ecuadorを手に入れて、読んでみると、このハチドリは生息数自体も多くなく、特にアンデス西山麓に棲息しているものは見る機会も少ないようで、どうりで日本人外国人を問わず、エクァドールを訪問された方々のホーム・ペイジでもこの鳥の写真が掲載されていないケースが多々あること、二つ目は私の前回の1枚の写真ではこのハチドリの特徴がよく分からないこと、そして何より、この野鳥についてもう一回書きたいと思ったことです。

後でまた触れますが、このルリムネハチドリのアンデス山脈の西山麓に棲息しているものと東山麓にいるものとの差異は、専門家の研究対象に成り得るほどだそうですが、私は西山麓のものしか撮ったことはありません。西山麓のものは生息数もかなり少ない上に、岩を噛んで流れ下る急流の渓谷沿いの林や森の中でしか見られないため、目にする機会は“scarce(滅多に出くわさない)”とさえ書かれています。そんなに珍しいハチドリをなんで私が撮影できたのかという理由は簡単なことで、エクァドールの野鳥観察に来るバーダーが殆ど立ち寄らない場所に私達が良く行くからです。Pahuma(パウマ)、以前、自生蘭を掲載した所で紹介しました、首都のキートから海岸地帯に通じるハイ・ウェイの途中にある、蘭園です。

そこでは、自分の裏山から見つけて来た様々な野性の蘭を、手作りの木と針金で出来た鉢に植え替えて、渓谷沿いの林の木々に吊るし、そこを訪れる観光客や、蘭愛好家、学校の生徒達に見せる目的でおじいさんが作った蘭園ですが、今ではかなり有名になったようで、アメリカ合衆国やヨーロッパから来る、エクァドールの自然、熱帯雨林体験ツァーなどをうたい文句にしている団体は(と言っても参加者20からせいぜい25人ぐらいの人数ですが)、観光バスで乗り付けて、オヤジさんや大学の先生、ヴォランティアーの若者の説明に耳を傾けています。土曜、日曜、祭日にはキートの大学で植物学の講座を持っている先生までが詰めていて、望む人々には非常に専門的な蘭の説明をしてくれます。以前の出張の折に此処を訪問したときは、私たちの商売が商売ですから、植物学に造詣の深い仲間が一緒だったため、その先生の蘭に関する説明に熱が入り、もうそれは観光客に対する説明ではなくなり、まるで、研究室での講義のようになってしまいました。それまで、ちょっと離れた場所に立ち、ハチドリや他の野鳥を撮影しようと、中学、高校と生物学が好きだった息子に蘭の先生の説明を通訳するよう任せていたのですが、スペイン語の専門的なヴォキャブラリーの知識無しには、もうそれ以上は訳せないと言われ、慌てて先生の説明を訳そうとしたのですが、その通訳の難しいこと。まず、蘭は植物学的にも芭蕉科の植物等とはかなり違っていて、バナナに関する参考書籍等はいわゆる原書で読んでいますが、そんな生半可な知識や理解では、高度で専門的な領域にまで入ってしまっていた先生の蘭の説明にはついて行けず、聞き返し、聞き返ししながらその意味を間違えないように日本語にするのが大変でした。

White-tailed Hillstar (和名:ルリムネハチドリ 学名:Urochroa bougueri)

同じ場所で、陽が差して来た時撮れたWhite-tailed Hillstar。White-tailedと命名したのが分かりますね。私はこの鳥に関しては、ルリムネと言う和名の方が好きですが。

その時つくづく思ったのは、もう50年位も昔になってしまった大学受験用の生物学の知識に毛の生えた程度のものでは、生態学、遺伝学が著しく進歩した現代の生物学を基礎とした蘭の説明を業界仲間に訳すことでさえ無理だと言うことでした。「スペイン語ではこう言う意味だから、英語はこんなとこだろう。日本語だと何て言うのかなぁ。」などと、息子と仲間に意訳しては、未だ不明な点を先生に聞き返して、辛うじて格好をつけたような次第で、冷や汗をかき通しの一時間でした。私の出た藤沢に在る県立高校は当時の進学校でしたが、受験に必要な最重要科目以外でも目一杯教え込むといった校風を私達生徒は悲鳴を上げながらも当然のことと受け入れていましたし、個人的にも、非常に個性的で人間味溢れる先生方が大勢いらした中でも、生物の名物先生の一風変わった人柄が好きで、生物は一生懸命3年間勉強した心算だったのですが。高校時代はもとより、大学を出てから社会人の期間も、もっと生物を勉強しとくんだった、と後悔しきりでした(ただし、過去形)。

話を戻して、ルリムネハチドリですが、Pahumaはそんな蘭の名所にはなっていますが、有名なバーディング・スポットではないし、実際、蘭や熱帯雲霧林を見るための観光客が多くて、TandayapaやBella Vista、Mindoといった鳥見の名所での時間を削ってまでこのハチドリを見るだけに訪問する価値があるかどうかは、私にも分かりません。ただ、今までルリムネハチドリを見たことも撮ったこともないというエクァドール探鳥・リピーターの方々には推奨の場所です。

ガイド・ブックThe Birds of Ecuadorによれば、東山麓のルリムネハチドリの頭と背は緑色で、ブロンズ色の西のものとは違い、他方、写真でも見られる顎の部分の赤い羽根は東のものにはないなど幾つかの形態的差異と生態上にも違いがあって、二種のハチドリがルリムネハチドリとされているのではないか、強いて言えば、西山麓のものは“Rufous-gaped Hillstar”と呼んでも良いのではないかとも書かれています。