バナナ園の野鳥と生き物 = バックナンバー =


No.152 Gray Hawk

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Gray Hawk (ハイイロノスリ:Buteo nitidus )"です。

Gray Hawk (ハイイロノスリ:Buteo nitidus )

何時来ても、何かの種の鷹が止まっている梢にハイイロノスリがいました。体が小さい割には図太く、車内から半身の私と白く長いレンズが覗いていても、暫くそこに居続けました。

今回、前々回のサバンナノスリから再び正統(?)な鷹に戻って来たのですが、此処でまた和名に関して、素人を悩ます問題が出て来ました。和名が分からないとき、あるいははっきりしないときにはいつもお邪魔させていただく「オンライン野鳥図鑑」では、Gray Hawkは「学名:Buteo Plagiatus 和名:ミナミハイイロノスリ」となっており、Gray-Lined Hawkは「学名:Buteo nitidus 和名:ハイイロノスリ」となっています。ところが、この鷹のことをもう少し知ろうと思って、図鑑The Birds of EcuadorのStatus, Distribution, and Taxonomyを読んでみると、どうもこの鷹に関しては学説が幾つかあるらしいのです。迷いましたが、私はThe Birds of Ecuadorの著者が採る「Gray Hawk: Buteo nitidus:ハイイロノスリ」を今回の題としました。また、自然保護区Cerro Blancoで買った野鳥説明書に書かれた内容もThe Birds of Ecuadorの説と同じだったので、多分エクァドールでは、この説が主流なのかと想像しています。

この鷹は、La Costa (海岸地帯) の太平洋岸と広大なグァヤス盆地の間に位置するCordillera Costanera(海岸山脈)、山脈と言っても、アンデス山脈のような4000メートルを越える高い峰峯が屏風のように聳えて立つ、一般的に我々が抱く山脈のイメージとは大いに異なり、エクァドールの乾燥地帯特有の木々が生えている海抜400から600メートル位の低い山塊が連なっている山地とその周辺に、主として棲息しています。太平洋沿岸中央部から南に走り、その中心部にあるMachalilla国立公園を経て、グァヤキールの西に位置するChongon 湖とCerro Blancoに至る長さ200キロ強の、Bosque Seco(乾燥森林地帯)と呼ばれる一帯は、今ではGuayacan (鉄木) に代表されるような、大きく堅い巨木はことごとくと言っても過言でないほど伐採されてしまい、昔の面影は百年以上も前に失っていますが、それでも、雨季になって草や木々に葉が茂るとその山塊は緑に覆われ、人間が容易にその中に分け入ることは出来なくなります。この広大な地域にはピューマのような猫科の大型捕食獣もかろうじて生き長らえていますが、ジャガーはもう棲息していないだろうと言われています。環境の悪化によって大型獣の餌となる動物が減ったからで、一つの例として、今から30年程前までは、太平洋岸の漁師町に釣りに行った帰途にこのサバンナ地帯を横切って作られた海岸からグァヤキール市に至る幹線道路の中間地点の町、旧名Progresoにやって来ると、街道沿いには夕方の6時頃から露天が軒を並べ始め、周囲の野や山で狩ってきた鹿の肉を竹串に刺して焼いて売っていました。先日20数年ぶりにそこを通ったときに土地の人に聞いたところ、今では鹿がとても少なくなったので、ヤギや豚の肉を焼いて売っているとのことでした。

Gray Hawk (ハイイロノスリ:Buteo nitidus )

この鷹がどんな獲物を狙っていたのかは分かりませんでした。ただ、そこから50メートル程離れた木の上にはDusky Pigeon(ウスグロバト)が止まっていましたが、ハイイロノスリには大き過ぎる獲物だと思うので、バナナが植わっている手前の小さな沼に来ていた、水鳥か他の小動物をノスリが狙っていたのだと思います。

ここに掲載した写真を撮ったのは、Enanoバナナ農園“Hacienda Los Alamos(ロス・アラモス農園)”で、去る2月の出張のときでした。バナナ園と牧場からなる総面積約3000ヘクタールのロス・アラモス農園は、南に雨季になると必ず一度は氾濫する暴れ川、Rio Canal(リオ・カニャル)が流れ、北は自然保護区Churuteに続く水田と湿地帯があり、その中間にバナナ栽培に適した適度に乾いた広い、島状になった土地あって、その上に作られた農園です。そんな自然環境の上に、農園の一部で行っていた有機バナナ栽培の実験に数年前支障が生じるまでは、全農園で科学物質の使用を極力抑えていた関係で、今でも哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、鳥類、昆虫類などの生物多様性に富んだ農園です。ときには、巨大な水錦蛇のアナコンダや猫科の野獣ヤグァルンディに遭遇することもあるほどです。数年前まで農園場長を務めていた男が蛇好きで、あるとき、農園の水路整備を全面的に始める前、労働者を集めて、「アナコンダを見つけたら殺さずに持って来るよう、一匹に付き10ドルから15ドルを払う。」と言ったところ、10匹程が集まったそうで、その数ヶ月後に、バナナ業界の仲間達とこの農園に立ち寄った時には13匹のアナコンダが飼われていました。その後、大雨が来て、檻が壊れ、蛇たちは再び農園の何処かへ姿を隠してしまったそうです。

この写真を撮ったときは、業界の同行者がいなかったので、新しい場長の案内で、久し振りにこの広いロス・アラモス農園をゆっくり、隅々まで見て回りました。第131回掲載(カオグロクイナ)や135回(ナマケモノ)のところで紹介したオージョスさんのサニート農園ほど様々な野鳥には出会えませんでしたが、15種以上の野鳥を確認して、カニャル川の堤防へ向かいました。もちろんその目的は雨季に入り始めて、水嵩を増して来た川の様子と堤防を見ることでしたが、場長も私も堤防に沿って残してある林には、よく鷹が来ることを承知していたので、今日はどんな鷹が来ているかと期待していたのも否定しません。案の定、このハイイロノスリが喬木の頂で廻りを見回していました。堤防の上で四輪駆動車を止めて、初めは窓ガラスを下げただけで写真を撮ろうとしたのですが、鳥が近くで高い所にいたためその姿勢では無理だったので、ドアを半開きにして半身を乗り出し、エンジンを切って貰ってシャッターを切り続けました。