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No.146 Brown Inca

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"White-necked Jacobin (和名:シロエリハチドリ 学名:Florisuga mellivora)"です。

White-necked Jacobin (和名:シロエリハチドリ 学名:Florisuga mellivora)

Mindoのレストランで、上を飛んでいた他のハチドリに反応して羽を振るわせていたシロエリハチドリ。

今回取り上げるWhite-necked Jacobinは、第134回に掲載したGreen-crowned Woodnymph(ミドリボウシモリハチドリ)を撮影した、Mindoの町の西外れに近い所にあるレストランで撮ったものです。そのレストランは素朴な、というか、質素な、といったら良いのか、竹と丸太と、多分、河原から持って来た石で作られた、倹しいけれども、心が和むような丸太小屋という風情のレストランで、エクァドールの観光地やハイウェイ沿いに建てられている瀟洒な多くのレストランとは全く趣を異にした山の中の食堂という表現がピッタリするような所です。

活火山Pichincha (ピチンチャ:標高4675メートル)の西山麓に展開する、広さ19000ヘクタールのMindo−Nambillo 地区の裾野近くに位置するMindoは、広い谷間に作られた集落で、そこには数本の水量豊富な清流が流れています。そんな谷川を利用して方々で虹鱒やテラピアが養殖されているので、どこのレストランでも新鮮な魚料理が食べられます。私達はいつも体長が45センチ程で体高のある虹鱒のフライを食べながら、ガラスのない窓辺に吊るされた6個のフィーダーに次々にやって来るハチドリ達に、他の客に気兼ねすることもなくシャッターを切っています。鳥好きには堪えられない場所で、Mindoの谷間、海抜約1350メートルの高さにあるこのレストランには色々な野鳥がやって来ます。1750メートルのTandayapa Bird Lodgeでよく見られる鳥も、La Costa(海岸地帯)のバナナ園やその周辺で見られる鳥、オリートの産地のLa Manaで目にする多くの鳥などもこの位の高さまでは来るようで、ハチドリもBooted Racket-tail(ラケット・ハチドリ)、Andean Emerald(ズアオエメラルドハチドリ)、Rufous-tailed Hummingbird(ハイバラエメラルドハチドリ)、Brown Violetear (チャイロハチドリ)や前述のミドリボウシモリハチドリなどがこのレストランのフィーダーを訪れます。

そんな中でも人々の目を一番引くのが今回のWhite-necked Jacobinです。目立つ理由は第一に、ご覧のように白とメタリック・ブルーの対比が鮮明なことで、次に何よりも、その飛来する鳥の数が多いことです。さらに、このハチドリはフィーダーの止まり木に下りる姿勢を取る直前には、まさにほんの一瞬ですが、その白い尾羽を扇状に目いっぱい開き、文字どおりフォトジェニックな飛翔姿を私たちに見せてくれるのですが、それを撮るのは私のような素人には、至難の技で、今のところ、かなりのピンボケ写真でさえ撮れたことがありません。此方に向かって飛んで来る、ガラパゴス諸島の夕焼けの空を滑空するRed-billed Tropicbird(アカハシネッタイチョウ)の飛翔姿も美しく、撮り難いショットですが、このシロエリハチドリが尾羽をいっぱいに開いた瞬間の飛翔姿を撮るのはそれよりも遥かに難しいものです。

White-necked Jacobin (和名:シロエリハチドリ 学名:Florisuga mellivora)

同レストランで、フィーダーにやって来たシロエリハチドリの雄2羽。左隅のハチドリの種は同定出来ません。この姿勢を取る少し前に白い尾羽をいっぱいに開いていました。

一般的に空中ディスプレイをするのは野鳥の雄が多いのですが、このハチドリは雌も同じ様なことをするようです。日本へ帰って来て、写真の整理をしていた先日になって、初めてその事に気が付きました。このシロエリハチドリの雌は、雄とはまったく似ていずかなり地味なので、「後で整理しよう」画像の範疇に入れておいたのですが、やっと時間が取れたので、ガイド・ブックを参照しながらそんな野鳥達の同定を始めたところ、地味な灰色っぽいハチドリが薄茶色の尾羽を扇状に開いているのを見つけました。ところが、イラストではこのハチドリが同定できないので、インターネットで見ることの出来る、写真を使った野鳥ガイド・ホームペイジ “Mango Verde”のWorld Bird Guideを訪問して、シロエリハチドリの雌ではないかという事が分かりました。ただし、若鳥が雌に似ている鳥も多いので、もしかすると、羽の色が成鳥のものになる前でも、既に尾羽を広げるという動作だけは始めているのかもしれません。

ガイドさんを同道していて、見た鳥の名前がどうして判らないのかという疑問を持たれる方もいると思いますので、弁解をしておきます。私の場合、スペイン語の方が英語よりも分かり易いのですが、野鳥の名前は英語のガイド・ブックを使用する関係上、英語で覚えているので、ガイドさんも英語で教えてくれるのですが、スペイン語訛りの強い英語で聞き慣れないハチドリの名前を間髪入れずに言われても、次々とフィーダーにやって来ては飛び去りまた戻って来る、何十羽、いや延べ何百羽ものハチドリに酔ったようになってシャッターを切っている私の記憶には残らないのです。多分、エクァドールやコスタ・リカでハチドリを観察した方は私の言い訳を理解していただけると思います。中南米で鳥見をする時は、英語にとても堪能な方以外は日本語で説明してくれる人に付いて貰えるなら、その方がお勧めです。勿論、仲間の中にカメラを手にしない親しい人がいて、その方が野鳥の名前を丁寧にメモしてくれる場合は親切な現地のガイドさんと歩くのもとても楽しいものです。