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No.144 Collared Inca

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Collared Inca (和名:シロエリインカハチドリ 学名:Coeligena torquata)"です。

Collared Inca (和名:シロエリインカハチドリ 学名:Coeligena torquata)

Bella Vistaのホステルの脇にあるフィーダーに来て、ネクターを吸って一息ついていたシロエリインカハチドリ。首の白は鮮やかに見えます。

今回から3回はふたたびハチドリに戻ります。Mindo Nambillo地区の海抜、2200、1800、1400メートルの熱帯雲霧林に棲息する鳥たちを取り上げます。最初は「インカハチドリ」と呼ばれる、Collared Inca, Brown Inca, Bronzy Incaの3種を扱おうかと考えていたのですが、アンデス東山麓に主として棲息するBronzy Inca(ブロンズインカハチドリ)の写真が手元にないので、西山麓に棲むインカハチドリ2種と、海抜1400メートルのMindo地区でその存在が目立つハチドリ1種を取り上げることにしました。

このCollared Incaは、アンデス東山麓と西山麓の北部に棲息し、特にUpper-Tandayapaと呼ばれる海抜2200メートルの地点にあるBella Vistaではよく目にすることが出来ます。首から胸に掛けての真っ白な羽毛と、ビロードのような紺に見えたり深い緑色に見えたりする羽毛のコントラストが鮮やかなこの鳥が飛んで来て傍に止まる瞬間は、見るものをはっとさせます。派手で目立つ鳥が多いハチドリの中でも、シックな美しさで多くのファンを持っています。近くで撮った写真の中には頭を上げて上空を見る仕草のものがないので、掲載しませんでしたが、そんな瞬間に日が当たっていれば、このハチドリの首の下と白い襟巻き状の羽毛の間に鮮やかな緑色の部分を見ることが出来ます。ただし、前にも書きましたが、このハチドリと正対するような角度で見ないと、その部分が鮮やかなメタリック・グリーンに輝くのを目にすることは出来ません。エクァドールに行かれてハチドリを撮影される時は、横からは勿論、正面からの写真を撮ることも忘れないで下さい。また、多分正面から写真を撮るためと、その角度で光を当てるのが目的で、Advanced Amateurと呼ばれる写真愛好家、あるいはプロ・カメラマンと称する人達(特に欧米人に多いのですが)が、正面の至近距離からフラッシュを焚いているのに出くわします。去る4月にも、Mindoへ向かうハイ・ウェイの脇にある有名なレストランの庭先で、ヨーロッパから来た50代と思われる女性フォトグラファーがVelvet-purple Coronet(フジイロハチドリ)をハチドリが飛んで行ってしまうまで、1メートル半程の至近距離から外付けフラッシュを焚き続けて撮影していました。何より辛かったのは、その女性が使っていたカメラとレンズのセットが私が日本から持って行った、海外旅行時に愛用する鳥撮り用のものと全く同じだったことです。特に、エクァドールのハチドリはかなり近距離で撮影できるので、重い500ミリF4以上のものは絶対的必需品ではありません。同じ装備をしたバーダーが、野鳥にストレスを与えることもあまり考えず、人間本位、今の表現で言う「自己中そのもの」といった態度で振舞うのを目にするのはちょっと耐えがたいものでした。そんな不愉快なことがある一方、その一週間前の土曜日にBella Vistaで出会った、同じカメラ・レンズ・セットを持った私と同年代のアメリカ人の男性とは、ここに載せた写真を撮る時も、Plate-mountain Toucan(イタハシヤマオオハシ)を撮った時も、お互い場所を紳士的に譲り合って楽しくアンデスでの貴重な時間を過ごすことが出来ました。そして、付け加えますと、彼はどんな状況下でも野鳥に対してフラッシュを焚こうとはしませんでした。

Collared Inca (和名:シロエリインカハチドリ 学名:Coeligena torquata)

同じ場所で別の週に撮ったもの。斜め後ろからなので、緑色がかって見えます。奥にぼけて見えるのはラケットハチドリの尾の先端です。

どのハチドリが最も美しいか、魅力的か、あるいは好きかという議論が交わされることがよくありますが、ほとんどのハチドリが見る角度、光の質、光の量、光の当たる角度、背景などによって、同じ種のもののようには見えない、時には違う種のハチドリのように見えることもあり、さらに人の好みも様々なので、ある特定のハチドリが一番だと限定するのはちょっと無理があるかなと思います。ただ言えることは、ハチドリの仲間は、この地球上に生を受けた美しい幾つかの野鳥達のうちでも、特に美しいものたちの一つに数えられる事は間違いないだろうということです。