バナナ園の野鳥と生き物 = バックナンバー =


No.142 Thick-billed Euphonia& House Wren

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Thick-billed Euphonia( ハシブトスミレフウキンチョウ:Euphonia laniirostris) & House Wren (イエミソサザイ:Troglodytes aedon)"です。

Thick-billed Euphonia( ハシブトスミレフウキンチョウ:Euphonia laniirostris)

熟したオリートの実は様々な野鳥達に食べられていたようです。私が農園に入って行くと、文字通りバタバタと十数羽の野鳥が逃げて行きましたが、直ぐに戻って来たのがこのThick-billed Euphoniaの若鳥でした。でも、未だ私を警戒していました。

今回取り上げる一枚は私の好きなThick-billed Euphonia(ハシブトスミレフウキンチョウ)です。ただし本当は、羽毛の色が瑠璃色に輝く美しいオスの成鳥の方が魅力的なのですが、オスの写真で納得できるようなものは未だ撮れていません。以前に掲載した写真は堆肥を作るため、規格外品のバナナを農園に積んで置いた所へやって来た鳥達だったので、距離もあり背景ももう一つ満足出来るものではありませんでした。ここではオリート畑で撮ったオスの若鳥の写真を載せます。メスは全身が、各部で濃淡はあるものの、言う所の鶯色をしていますが、オスの若鳥には、青い色の羽が生えているものの、それが美しい瑠璃色に成るにはもう少し時間が掛かるようです。この写真を撮ったオリート畑はLa Manaの町の南からアンデス西山麓に続く丘陵地帯に作られた農園で、何らかの理由で、私が訪れた一月下旬までは定期的に収穫が行われていなかったようです。そのため、農園のあちらこちらに、切りとり損ねたオリートの全房が黄色い実を付けたまま残っていて、野鳥や小型の獣達の大好きなフルーツがあり余るほどある格好の餌場となっていました。ただ、そんな手入れの行き届いていない、なおかつ化学物質が殆ど使用されていない上に、下草が刈られていない農園に入る際は、毒蛇とタランチュラに細心の注意を払わないとえらいことになります。足元に十分気をつけ、樹上の野鳥達を視界に入れ続けるのはかなり気疲れのする仕事です。

もう一枚は、バナナ栽培環境に最も適応した野鳥のひとつで、バナナ園の中へ入ると、多分、どこへ行ってもその囀りを一番耳にする野鳥、House Wren(イエミソサザイ)にしました。この鳥も過去に一度載せましたが、新大陸のミソサザイ類にしては日本のミソサザイより少しだけ大きいかな、といったサイズのこの野鳥はとても人懐っこく、フォトジェニックなので再たび取り上げることにしました。このイエミソサザイはこれまで何回か書いて来たFrushi Groupの“San Fermin”農園で、去る四月に同園を訪問したときに撮ったものです。

House Wren (イエミソサザイ:Troglodytes aedon)

ちょうど縄張りを主張して鳴き続けていたのか、私が近づいても逃げないでバナナの葉の上にいました。この位近付けると野鳥撮影も楽なのですが。

ここで、今までに何回も野鳥写真の舞台としてきたLa Mana地区について簡単に説明したいと思います。La Costa(海岸地帯)を南北という視点から見るとほぼ中央部、東西でいうと、東寄りのアンデス西山麓の縁に位置して、流水量の豊富な川グァヤス(Guayas)の中流域(ここでケヴェド(Quevedo)川と呼び名が変わります)に流れ込む、アンデス西山麓に源を発する多数の支流の一つRio San Pablo(サン・パブロ川)の川岸に建つ町がLa Manaです。古くはプレ・インカの時代からスペイン植民地時代を経て20世紀半ばまで、海岸地帯と文化・政治の中心地であったアンデス高地を結ぶ最も交通量の多い街道筋の宿場町として栄え、現在はバナナ、オリートなどの農作物の集積地となっています。街の背面の東には海抜4000メートルを超え5000メートル級の高山を抱えた峰峯から成る“Cordillera Occidental de Los Andes(アンデス西山脈)”が迫り、北と南には丘陵地帯がアンデス西山麓に沿って広がっています。地図上の直線距離では80キロも北に上るとMindo地区に入りますので、La Mana周辺でもバナナやオリートの近代的な農業が広く展開される前はMindoと同じような野鳥や自然が見られたことだろうと想像します。なだらかな丘陵が続く北側とは違って、南側の丘陵地はすぐにアンデス西山脈の山々に続いていますので、小規模なオリート農園が営まれているだけです。したがって、今でも南側の丘陵地の麓に在るバナナ園、例えばオージョスさんのサニート農園などでは豊かな動植物を目にする機会が多いのです。