自然保護区“Churute”の管理事務所にやって来たCapuchin Monkey. 穏やかな顔をしています。
バナナ園とその周辺で見られる野鳥以外の動物3連載の最後はこのCapuchin Monkey です。この猿の黒い頭髪が頭巾を載せたように見えるので、イタリア語のcappuccin スペイン語のcapuchoからこの猿の名前が由来しているようです。エクァドールで“Mono Capuchino”と呼ばれるこの猿は、中南米に広く棲息し、エクァドールのLa Costa(海岸地帯)では最も普通に見ることの出来る猿だったようです。「だったようです。」と過去形で書いたのは、農牧業の発展、市街地の急激な拡大などによって原生林や二次林が著しく減少した現在では、アンデス山麓を除いては特定の地域に入らなければ目にすることは難しくなっているからです。
今から43年前、私が初めてエクァドールに出張し、ジープに乗せて貰ってバナナ産地廻りをしていた当時は、未だバナナ栽培自体も今と比べると遥かに大雑把で、農園の周りにも森や林がたくさん残っており、様々な野生動物が棲息していたのですが、サル類だけは見掛けませんでした。ある日、グァヤキールの町で動物学者を紹介されたので、予ねて疑問に思っていた、何故サル類を見ることが出来ないのか、と聞いたところ、第二次大戦後のある年から数年に亘って、サルの間に疫病が流行り、La Costaのサルはほぼ全滅したと説明を受けました。道理でQuevedo(ケヴェド)や隣町のEmpalme(エンパルメ)の街角ではジャガーやピューマ、オセロット等の毛皮が吊るしてあっても、また、バナナ園の中でオポッサムの仲間のRaposa (Marmosa robinsoni)やZorigueya(Didelphis marsupialis)をよく見かけても、サル類だけは見なかったのか納得がゆきました。参考までに付け加えますと、その後も農牧業の発展は続き、近代化も進んで来ていますが、ここ20数年前から化学薬品頼りの農牧業に対する反省が顕著になり、方々で減農薬栽培やオーガニック農業が行われるようになった事、環境保護などの社会的要求の機運が高まった事などが良い方向に働いて、そして多分サル類の疫病から生き残ったもの達の子孫が森や山地で増えたのでしょう。La Costaの方々にある自然保護区を中心として色々な所でサルが出没するようになったと言っています。ただ残念ながらサル達の棲息地である森や林が顕著に増えた訳ではありません。
同じサルが私を威嚇するつもりか、遠くから歯を剥きだしていました。しかし、写真を良く見てみると、悲しそうな顔をしているようにも見えます。
このサルを撮ったのは、本年二度目の出張をしていた4月に、グァヤキール市の東を流れるグァヤス河の対岸にある自然保護地区“Churute(チュルーテ)にバード・ウォッチングと他の野生動物を見に行ったときです。手配していたガイドさんが、手違いで予約しないでやって来たマイクロバスのアメリカ人観光客と行ってしまい、代わりのガイドさんも見つからなかったので私達だけでChuruteの山へ入らざるを得なくなり、山と谷間に響き渡るホエザルの鳴き声を聞き続けた以外、大した収穫もなく事務所まで戻って来ました。エクァドール人ガイドさん達の名誉の為に書きますが、私が今までに頼んで来たエクァドール人のガイドさんは、いつもキートで案内してくれるDannyを始め、ほとんどの人達は時間に正確で、約束を違えた事はありません。これが初めての経験でしたが、知らない山に、今まで見ていない野鳥や野生動物を撮影する目的で、ガイドさん無しで入ると実に惨めです。話を戻して、管理事務所に戻ってみると、そこには気まずそうにしているガードマンと庭の方を歩いていた一匹のサルだけがいました。その時、思い出したのは前日ガイドさんの手配を頼んでいた時、職員の右腕に仰々しく包帯が巻かれていたことでした。どうしたのかと聞くと、裏山から下りて来たサルに噛まれた、と言うのです。裏山にいるサルはホエザルかと聞くと、Mono capuchinoだと言っていました。そして、説明してくれたのは、人に飼われているサルがいたので、収容に行き、野性に戻すために暫く管理事務所で飼った後、裏山に放して野生の群れに混じったのを確認したのだが、時々事務所に戻って来るのだそうです。しかし、人間に飼われていた時、可愛がられていなかったのか、情緒不安定(?)で性質が粗暴、よく人に噛み付くと言っていました。そのうち、離れた所から私に歯を剥いて脅すような素振りをしたので、前日話題になっていたのはこのサルのことだなと確信しました。エクァドールの田舎へ行くと、人々は色々な野生動物をペットにしていますが、その動物達が成長した後も人間と上手く行くケースは少ないようです。