サニート・バナナ農園“Laurita”の中を流れる小川の岸で餌を探していたSora(カオグロクイナ)。
水鳥3種の三番目はSora(カオグロクイナ)です。このクイナを撮ったのは、オリートの産地La Manaに近いアンデス西山麓のほぼ西の先端に位置するValencia地区のサニート農園“Laurita”です。ここのオーナーのSr. Freddy Hoyos(フレディ・オージョス氏)は比較的新しくサニート・グループに参加した農園主ですが、彼の自然保全と保護に対する熱心な姿勢は、先輩にあたる他のサニート農園主達に勝るとも劣らないものがあります。特に、その農園の背後までアンデス西山麓が迫っているという地理的位置、清流が農園の中を何本も流れているといった立地条件、農園に昔から生えている古木は出来るだけ切らない、という彼の考えなどから、そのbio-diversity(生物の多様性)はサニート農園グループの中でも一、二を争うものです。これからも頻繁にこの農園で撮った写真を掲載するつもりでいるのは、それだけ写真の枚数が多いということですが、それらは野鳥に限らず、哺乳類、爬虫類、植物などを含んだ幅広いものになる予定です。その中にはSoraのように、今ではエクァドールでの目撃報告例さえもが少なくなったものも幾つかありますので、有機栽培に近いサニート農園を維持して行くのは大変なことですが、オージョスさんには何時までもこの豊かな自然を抱えたバナナ園を守って欲しいと思っています。
このSora、カオグロクイナは、二巻からなるガイド・ブック“The Birds of Ecuador”の”Status, Distribution and Taxonomy”によると、アンデス北部の“Yaguarcocha(ヤグアルコーチャ湖)”周辺を除いては目撃例が少なく、珍しい野鳥の部類に入るそうで、最近では“at least there are rather few recent reports”と書かれています。北米地域で繁殖し、冬季に南に下り、エクァドール、ペルーにまで渡って来るそうです。道理で、私もこの鳥を見たのは初めてでした。去る3月27日、首都圏生協責任者の方をバナナ産地視察のためオージョスさんの所へ案内したとき、農園の皆さんは私達の自然好きを良く知っているので、“Sr. Itoh, quieren ver perezosos?(セニョール・イートウ、皆さんはナマケモノを見たいですか)”と、聞いてくれました。もちろん、私どもは即座に、“ Si(はい。)”と答えて、オーナーや農園幹部の人達の後について、農園内を流れる川に架かっているちょっと緊張するつり橋を渡ってナマケモノを見に行きました。しかし揺れるつり橋の上から赤ちゃんに授乳しているナマケモノの親子の写真を撮るのは難しく、また、簡易つり橋を渡るのはあまり気が進まないので、大まわりをしながら、竹の小さな橋を渡ろうとしていた時、場長が身振りで、皆に、しゃべるな、あそこを見ろと、と指差してくれました。私も、その水鳥がクイナだということは分かったのですが、もちろんそれ以上の事は知りませんでした。ただ、多分珍しいクイナだろうと思いながらシャッターを切り続けました。
クイナの仲間は強くない野鳥が多いので、保護色になる羽色を持っています。私と日本からの仲間だけだったら、おそらく、カオグロクイナに気が付かなかったでしょう。
ガイド・ブックを読み返しながら、この原稿を書いている今も、本当に運が良かったなあ、と懐かしく思い出しています。オージョスさんの農園に行く度に、何かしら面白いものが見られるので、私にとっては訪問するのが楽しみな農園の一つです。
一般的に、バナナ園内に限らず、野鳥や、その他の動物、蘭などの珍しい動植物に出会って、良い写真が撮れるときは、大体、農園で働いている人達や、ガイドさん達が見つけて、私に教えてくれるケースが多く、それはこの人達がその場所に詳しいのと、都会生活で視力が落ち込んだ我々と違って、実に素晴らしい目を持っているからだと思います。野鳥や動物の気配を感じることでは、まだまだ現地の人達にも感心してもらっていますが、視力は日本の都市生活、特に受験期、運動部活動を終えた後の夜間勉強によって悪化させましたので、今では裸視で0.8ちょっとしかないのでは、というところまで落ちています。中学時代の身体検査では、お年の先生によく、「君、二十年も前だったら、特攻隊の操縦士になれる理想的な視力と運動神経を持っているのになあ。」と言われていたのですが。