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No.130 Black-bellied Whistling-Duck

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Black-bellied Whistling-Duck(アカハシリュウキュウガモ:Dendrocygna augtumnaris)"です。

Black-bellied Whistling-Duck(アカハシリュウキュウガモ:Dendrocygna augtumnaris)

Chongon湖の水位が異常に下がった岸辺でこちらを警戒し続けていたBlack-bellied Whistling- Duckの番。手前に写っている黒い鳥はLa Costaで人々が“Tiringo”と呼ぶScrub-blackbirdです。

この鴨を撮ったのは、今までも何回か登場した、グァヤキール市の西、約20キロメートル程の地点にある人工貯水湖“Chongon(チョンゴン)”を1月出張の際のウィーク・エンドに訪れたときでした。その日までの数週間は雨が降らない雨季だったので、貯水湖の水位も10メートル以上も下がっており、そこら中に蜆のような二枚貝の貝殻が散らばっていました。小型の鴨達や、Wattled Jacana(南米レンカク)、Black-necked Stilt(クロエリセイカタシギ)、Great Blue Heron(オオアオサギ)等は水辺で餌を漁っていましたが、その様子は今まで見てきたものとあまり変わったものではありませんでした。突然、大型の10数羽の鴨が飛び立って、私の立っていた岸辺の上空を旋回して行きました。その小さな群れが降り立った方を見ると、他にも20羽程の同じ鴨達が、遠く離れた岸辺で羽を休めているのが目に入りました。望遠レンズの焦点を合わせて、その鴨達の同定を試みたのですが、この鴨は私の記憶に強く残っていたということも無かったこと、実際、この鴨を可視距離で見るのは初めてだったうえ、もともと淡水の水鳥に詳しくない私では名前もはっきり分かりませんでした。帰国して、The Birds of Ecuadorを参照し、internetでラテン・アメリカや水鳥に詳しい方々のHome Pageにお邪魔したりして、この鴨の名前を確認した次第です。ガイド・ブックによるとLa Costaでは珍しい水鳥ではないと説明されていますが、バナナ園廻りの行き来では目にすることのない鴨です。

写真を撮るとき、一番困ったのは、この鴨の異常なまでの警戒心の強さでした。普通の水鳥ですと、Snow Egret(ユキコサギ)、Wattled Jacana、Black-necked Stiltなどは、大体25メートルから30メートル位まで私が近づいても、飛び立つようなことはないのですが、この鴨はほぼ50メートル以内に一脚に望遠レンズを装着した私が接近すると、群れ全体が飛び立って、70メートル程も離れた所へ着地するということを繰り返しました。それ以上、鴨達にストレスを与えたくないので、遠くからシャッターを押しました。

Black-bellied Whistling-Duck(アカハシリュウキュウガモ:Dendrocygna augtumnaris)

私から離れたので安心しているのか、或いは、群れの多くの仲間と一緒に居るせいか、くつろいでいるように見えるBlack-bellied Whistling-Duck。

前にも何回か書きましたように、鉄砲で、それが近代的で高性能であるか、「えっ、これも鉄砲ですね・・」といったレベルの物であっても、狙われる、あるいは狩られる野鳥が、その羽を休めるときに厳密な意味で禁猟区域ではない場所にいる場合は、当然なことですが非常に人間を警戒します。

私がエクァドールの野鳥に特別な関心を持って接するようになったここ13年は、雨季と乾季の境、つまり、12月初旬にエクァドールへ出張することはほとんどなかったので、この端境期にどんな野鳥が来ているのか、バナナ園やその周囲でいつも目にしている野鳥達がどんな風にしているのかなどを観察することはありませんでした。今期は雨季が一ヶ月も大幅に遅れ、さらに私が1月に出張を要請されたため、偶然、雨季と乾季の変わり目のLa Costa(太平洋沿岸地帯)、アンデス西山麓と同地の熱帯雲霧林、アンデス高地と高地雲霧林などでこの端境期を実感し、野鳥達の今まで目にすることのなかった生態を観察できるという大変貴重な経験を持てました。その中には、北半球が冬になるので南の地エクァドールまで渡って来て、その数を増やした鷹鳶をはじめとする野鳥達、雨季という昆虫が急激に増える時期に巣作り、子育ての準備をする野鳥達の写真が撮れました。