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No.127 Green Kingfisher

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Green Kingfisher (ミドリヤマセミ:Chloroceryle Americana)"です。

Green Kingfisher (ミドリヤマセミ:Chloroceryle Americana)

女性市長セニョーラ・アンドラーデのサニート・バナナ農園でバナナ運搬用のケーブルに止まっていたミドリヤマセミの雄。胸の赤いのが雄。

今回掲載したGreen Kingfisherの雄は、今まで度々書いてきたMocache市の女性市長さん、Sra. Andrade(セニョーラ・アンドラーデ)のサニート農園“San Marcos”で撮ったもので、雌はEnano Bananaの農園で、エクァドール最大のバナナ園“Clementina”の用水路で、一月の出張中、京都からの得意先の方と農園視察をしていたときに撮ったものです。

日本からの同業者や関係者の皆さんが驚くのは、たとえ農薬使用に神経を使っているノボア・グループであっても、減農薬栽培(今日では特別栽培と言いますが)のサニート農園でもなければ、まして有機栽培農園でもない慣行栽培農園、つまり普通のバナナ園内の用水路でミドリヤマセミやクビワヤマセミがタナゴ、ヴィエッハなどの小魚を獲っている光景です。私はもう何十年も見慣れた光景なのでちっとも驚くようなものではないのですが、初めて私どものバナナ園を訪問する人達にはショッキングなことらしいです。ただ、Clementina農園は、敷地が10,000ヘクタール(町歩)、バナナ園だけでも2,500ヘクタールあり、用水路が網の目のように広がっていますので、ヤマセミ達は小魚を追ってテリトリーを回っているため、ある特定の場所に行けば必ずそこにヤマセミがいる、という訳ではありません。たっぷり時間があれば、ミドリヤマセミやクビワヤマセミが頻繁に魚を獲っている所で待っているという手もあるのですが、駆け足で産地廻りをする私どもはスケジュールをこなして行かなければならないので、ヤマセミを見つけたところで車を止め、シャッターを押しています。静かな農園の中で走って来た車が急に止まるのですから、ヤマセミも警戒して、飛んでいってしまうこともしょっちゅうですが、中には人馴れしていて、落ち着いて魚を狙い続けるようなものもいます。このClementina農園で見た雌のミドリヤマセミもそんな一羽でした。


Green Kingfisher (ミドリヤマセミ:Chloroceryle Americana)

エナーノ・バナナ農園“Clementina”の幹線農道脇の用水路の上から7,8センチほどのタナゴを狙っていたミドリヤマセミの雌。首の下の所が白いのが雌。

現在のように、晴れたり豪雨が来たりする雨季の天候の下では、クビワヤマセミもミドリヤマセミも大忙しのはずです。それは、クビワヤマセミが普段取餌場にしている大きな川の淵の淀みは消えてしまっているからです。アンデスの山々に降った雨とLa Costa(海岸地帯)に降った雨が一緒になって川幅いっぱいの濁流となって激しく流れているため、魚も見えないだろうし、もしダイヴでもしようものなら、そんな無謀なことは決してしませんが、奔流に流されてしまうでしょう。そのため、クビワヤマセミは流れのほとんどない、普段は体の小さなミドリヤマセミが餌場にしているような、水の澄んでいる狭い農業用水路脇にやって来て小魚を狙っています。ミドリヤマセミにとっては、生存競争がより厳しくなっています。

そんな中で、体の小さなミドリヤマセミには、セニョーラ・アンドラーデのサニート・バナナ農園は天国みたいなものでしょう。体の大きなクビワヤマセミはバナナ園の中にある養魚場のテラピアを大量に獲って行くと従業員達が信じているので、目の敵にされ、すぐに追われますが、ミドリヤマセミは体が小さいので、クビワヤマセミ、ミサゴイ、ダイサギ、ウ、などの目の敵にされやすい大型の水鳥の影に隠れて、楽をしているように見えます。ある程度、手を掛けて出荷が近くなっている大きくなった魚を獲られるのと、まだ小さな幼魚を獲られるのとでは、関係者の心理的なものも違うのかも知れません。