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No.123 Andean Emerald

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Andean Emerald(ズアオエメラルドハチドリ:Amazila Franciae)"です。

Andean Emerald(ズアオエメラルドハチドリ:Amazila Franciae)

フィーダーからネクターを一先ず吸い終わって、ヴェランダ脇の小枝で一休みしたものの、頭上を飛び回る他のハチドリが気になるのかしきりに上を見ていたAndean Emerald

今回は前回の続きで、Tandayapa Valleyで見て来たハチドリをまた取り上げます。エクァドールでは色々な所でハチドリを見る、あるいは鑑賞することが出来ますが、Tandayapa Valleyの凄いところは、あの小さなハチドリが人間を恐れておらず、その日も私と若いガイドのDanny、そして私と恐らく同年代のアメリカ人の夫婦、その4人が、30畳程のウッド・デッキで作られたヴェランダに立っているにもかかわらず、私どもの頭上を鋭い羽音を響かせながら飛び交い、周りに置かれている四つのフィーダーに次々とやって来ては、中のネクターを他のハチドリと交代で吸い続けていたことです。例えば、今まで何回か書いて来た、Cotacachiにあるフランス料理レストラン“La Mirage”の庭園にも、あちらこちらに、フィーダーが吊るされていますが、そこに来るハチドリはどれも落ち着きがなく、フィーダーに嘴を入れるか入れないかに、そこを縄張りにしているアオミミ・ハチドリに追い払われるし、庭を歩く客、特に子供達が来ると、直ぐに飛び立ちます。レストランに来る客の中でバーダーは少数で、大部分が首都キートから食事に来る家族連れか、欧米の観光客で、彼らはハチドリを見ると、スナップ写真用の小型デジカメを手に、ずかずかとフィーダーに近づいて行きます。いくら人馴れしているハチドリでも、普通は人間が3メートル以内に接近してくれば、嫌がって飛んで行ってしまいます。中には、親が注意しないのを良いことに、ハチドリを脅すようにフィーダーに走って行く子供達も時折目にします。その点、Tandayapaにはまずマニアックなバーダー以外は来ませんので、野鳥を驚かせたり、野鳥に不必要なストレスを与えたりするような人間は、恐らく稀にしかいないのでしょう。ハチドリ達は我々人間を警戒はしていても、ひどく怖がっている様子はありません。野鳥の人間に対する似たような態度は、ガラパゴス諸島でしか接した経験はありません。

Andean Emerald(ズアオエメラルドハチドリ:Amazila Franciae)

アンデスのエメラルドと言うよりも、アンデスのトルコ石と言った方がピッタリ来るような羽色のAndean Emerald. アンデス山脈で青いトルコ石が採れるのかどうかは知りませんが。

Tandayapa Valley Lodgeに着いて、ヴェランダに出た私はハチドリの乱舞に陶酔してしまい、スケジュールをこなすために時間を気にするDannyに、「あと、10分。もう、あと5分。」と其処に留まることをお願いして、裏山で他の野鳥を観察する時間を削ってしまいました。「また、裏山を廻ったらここに戻りますから。」と言われて、渋々ヴェランダを後にして細い急な山道に入り、しばらく静かにしていると、フウキンチョやタイランチョウ、チュウハシ、キツツキ等が次々姿を現しました。ただし、これらの野鳥は私が最初に見付けたのではなく、ほとんど皆、Dannyが見付けて私に教えてくれたのです。「ここTandayapaは、Mindoと山続きだよね。距離は数十キロも離れているけど。Mindoには3回も行ったんだ。でも、こんなには野鳥がいなかったよ。」と言ったら、そのDannyが「セニョール、Mindoにもこのくらい野鳥が見られる所はありますよ。貴方が行った所は自生蘭を見るのには理想的な場所ですが、野鳥を見るには理想的とは言えない場所です。」と言ったので、「ちょっと待って。そうなの・・・」と、言葉に詰まっていると、「セニョール、私はMindoの生まれで、十代はあそこで過ごして、今でも時々実家に帰りますので良く知っています。それに、何よりバード・ウォッチングは野鳥の習性を熟知したガイドに案内して貰わないと、そこにいる野鳥を充分に見ることは出来ませんよ。」と、言われました。言われてみると尤もで、どの様な樹や、どの様なブッシュにどんな野鳥達が来るのかは、温帯や亜寒帯の森や林で鳥見をしている者が、熱帯雨林にやって来ても簡単に分かる訳はないし、蘭や熱帯植物、あるいは熱帯の蝶に詳しいから、野鳥にも精通しているかというと、そんな人達ばかりではないのは当然で、「今度Mindoに行く時は、貴方か誰か、野鳥専門のガイドさんを探すよ。」と答えると、Dannyは嬉しそうに笑っていました。

ここで、恥ずかしながら、ハチドリを取上げる時には恒例となっている同定の難しさ、或いは私のぼやきを書きます。このハチドリの写真を撮っていた時は、次々とやって来るハチドリ達にレンズを向けシャッターを切るのに夢中だったので、このハチドリの名前をDannyが口にしていた筈なのですが、私の記憶には残っていませんでした。日本に帰って来て、画像をデスク・トップで整理する段階になって、「さあっ、なんという名前のハチドリだったかなあ。」といういつもの悩みが始まりました。画面いっぱいに映像を拡大して、The Birds of EcuadorのHummingbirdsのペイジを開いて同定を始めました。最初に私の眼が行ったのは頭部のコバルト・ブルーというか、トルコ石の青(ターコイーズ・ブルー)のような頭部の羽色でした。この色でイラストされたハチドリは見当たりませんでした。次に、嘴の付け根から腹部にかけての真っ白な羽毛で、これに該当しそうなのは、センニョハチドリでしたが、2種のセンニョハチドリは尾羽の内側も真っ白なので、これでもないし、「まあ、模様が似ているのはAndean Emeraldかなあ。」と、なりました。しかし、ガイド・ブックには西部のものは頭部が緑で、南東部(アンデス山脈の南東部)、つまり、アマゾン側のものは頭頂部から首に掛けてブルーであると説明されていますが、ご覧の通り、西部のTandayapaで撮ったこの鳥も南東部のズアオエメラルドハチドリの特徴を示しています。今迄に、掲載した野鳥の中にも、本来はアマゾン側の鳥に特徴的だとされるものがLa Costaの鳥にもみられるケースはいくつかありました。「お願い。素人を悩ませないでよ。」というのが私の切なるぼやきです。