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No.117 Broad-billed Motmot

Photo & Text:Motoaki Itoh

今回は、"Broad-billed Motmot( ヒロハシハチクイモドキ: Electron Platyrhynchum )"です。

Broad-billed Motmot(ヒロハシハチクイモドキ:Electron Platyrhynchum )

陽も殆ど水平線に落ちようとしていた、サニート農園のバナナ切り株に止まっていた Broad-Billed Motmot。もしかすると、この鳥はここで寝ようとしていたのかなあ。だったら、ごめんね。

今回取上げる Broad-billed Motmot は、エクァドールのバナナ園内で目にすることのある3種類の Motmot 、それは Blue-crowned ( 第18回掲載 ) 、 Rufous (第39回掲載)とこの Broad-billed ですが、の中で最後に掲載する事になりましたが、特別な理由が有ってのことではありません。「バナナ園内で目にすることのある・・・」と書きましたのは、今日では Motmot 類は簡単に見れる野鳥ではなくなっているからで、目にすることのある野鳥ではあっても、バナナ園のある La Costa 地区では何処へ行っても見ることが出来るかと問われると、「残念ながら・・・」と答えざるを得ない野鳥だからです。この事はなにも Motmot に限ったことではなく、日に日に拡大していく人間の生活圏、宅地造成、農地拡大、道路網整備、港湾施設拡充など等、に対応できない生き物は、次々に未だ自然が残されているアンデス西山麓に逃げ込むか、少しでも林や原野が残されている地域で人間の眼を気にして生きています。そんな訳で、人間の生活に対応できている野鳥種は、サニート農園や自然環境が残っている有機栽培バナナ園へ行くと、一時間も農園内に居れば、繰り返し姿を見せるので、延べ数で、かなりの鳥を見ることが出来ますが、人間生活に対する適応力が低い野鳥は、たとえ、農薬使用を極端に制限したサニート農園や有機農園でも、姿を見ることは稀に成っています。勿論、農薬使用に鈍感な農園では、野鳥の姿を見ることさえ普通ではなくなっているのは、エクァドールに限った事ではなく、地球上の高度に農業が発展している国では当たり前のようになっています。ヨーロッパ、アメリカ、東南アジア、日本を含む東アジア、ラテン・アメリカ、何処へ行っても同じだと思います。ただ、エクァドール・バナナを扱う者としては、青果物のプロで生産地を熟知している多くのヴェテランが、「エクァドールのバナナ園では、鳥や、小魚、蝶、昆虫の姿を目に出来るのは、ホットするね。」と、言ってもらえるのが少しは救いになっています。ついつい、私はバーダーの目で野鳥をバナナ園で探しているから、不満を感じるのかも知れません。しかし、いつの日か、 Motmot をはじめとする美しい野鳥や、もともとその地に生息していた野鳥達がバナナ園に帰って来てくれればなあ、と願い続けています。そんな夢みたいなことを語り合えるバナナ農園主が大勢でなくてもエクァドールに居ることは、素晴らしいことだと感謝しています。

Broad-billed Motmot(ヒロハシハチクイモドキ:Electron Platyrhynchum )

ガイド・ブックによると、東部(アマゾン地区)の Broad-billed Motmot の尾の先にはラケットが無い、一方、西部( La Costa 地区)のものには有るが、ラケットが磨り減っていたり、欠落しているものもある、と説明されていますが、この写真の鳥にはラケットがありませんね。

話を今回の Broad-billed Motmot に戻しますと、この鳥を見た機会は余り多くは無いのですが、いつも、薄暗い木立の中か、この写真を撮った時のように、夕暮れになってからです。この時も、サニート農園に入っていく前に、入り口に向かって大きく農園の周りを車でカーヴした時、バナナ林の低い所をまるで、冬場のウグイスのように虫を探しながら移動している鳥を見掛けたのです。「あっ、止めて。」と言おうとして、もう日も暮れようとして産地周りの時間も余り残っていないし、皆に迷惑が掛かるので、じっと我慢しました。それから、小一時間程して、農園の中を歩いていると、先ほどの(?) Broad-billed Motmot が奥の方でバナナの切り株に止まっているのが見えました。私の様子に気が付いた仲間たちも、話し声を低くして、その場に静かに立ち止まってこの鳥を驚かせないようにしながら、興味深げに見ていました。中の何人かは、ハンディー・カメラやデジカメを持っていましたが、「これは駄目だ。暗すぎるし、距離が有り過ぎるよ。証拠写真だけでも撮るか。伊藤チャン、その望遠で旨く撮ってよ。」と言って、シャッターを切っていました。しかし、フラッシュをたく者は誰も居ませんでした。だいたい、バナナ屋になるような者は、私も当然そうですが、もともと自然が大好きな人間が殆どですので、鳥や動物を驚かせたり、怖がらせたりすることを嫌がる人間が多いのです。ちょっと怖そうに見える人も居ない訳では有りませんが、根は優しい者が殆どです。それはさておき、「旨く撮ってよ。」と言われた私は焦ってしまいました。慌てて、セットしてあった、 ISO 100のポジを取り出して、持っていた400に換えてシャッターを押し始めたのですが、いくら手振防止付きのレンズを一脚にセットしたカメラでも、シャッター・スピードが遅すぎて、どうしようもありませんでした。15枚ほど撮ったところで、勿体無いとは思ったのですが、今入れたばかりのフィルムを取り出して新しい400を入れ、800に増感して、辛うじてシャッターが切れました。36枚の中で何とかなったのは一枚だけでした。「もし、あの時、今持っているデジ一眼を手にしていたら、 ISO を1600にプッシュして撮れたのになあ。」とこの写真を見ながら思っています。勿論、私も外付けフラッシュは持っていましたが、使いませんでした。バナナの仲間が使わないのに、自然栽培を勧めている私が鳥を驚かせる様な真似は出来ませんし、野鳥撮影にフラッシュを使ったことがないのが、ささやかな私の矜持でもあります。